第5話 ステータスが見えたよ!

 

 寝癖受験生も箱を開けた。

 私たちの手の中には、それぞれの精霊石の輝きがあった。


「「「……!」」」


 3人で視線を交わし、箱からチョーカーを手に取って首にかけた。


 精霊石の光は蛍のように石を離れると、私たちの身体に吸い込まれた。

 光を失った石は透明になる。


 そして――。


 私の瞳の中にいきなり光の文字が浮かび上がった。


『ハルカ・モコモコーナ

 魔力:0

 攻撃力:7

 生命力:90

 速度:3

 知能:5

 幸運:10

 特技:エルフの歌、天然ボケ』


 おお~! これはステータスってやつかな?


 特技がエルフの歌なのはいいけど、天然ボケってどういうこと?

 私は村一番のしっかり者なんだけど……。この精霊石壊れてないよね?


 などと思いながら見ていると、新しいメッセージが現れた。


『受験生用魔法調律……。

 ステータス簡易表示:OK

 生命力下限保護:OK

 生命力自動回復:OK

 即死回避:OK』


 安全対策用の魔法がかけられたのかな?


 続けて私のステータスが折りたたまれて、すごく簡単になったよ。


『ハルカ・モコモコーナ

 魔力:0

 生命力:90』 


 受験にはこの項目だけを使うってことなのかもしれない。


 ふと顔を上げると、他の二人の顔の上にもステータスが表示されていた。


 赤毛の寝癖受験生は、寝ぼけ眼でまばたきしてる。

『ラビィ・フワトロニカ

 魔力:0

 生命力:100』


 猫耳受験生は、耳をプルルンって動かして驚いてる。

『ナナ・ニャーナ

 魔力:0

 生命力:70』


 二人はラビィとナナっていうんだね。名前が分かって便利!

 みんなお互いのステータスを眺め合って、そわそわした表情。


 私たちはカードゲームの手札を出した時みたいな、テストの点数を見せ合ったときのような、なんとも言えない顔で見つめ合ったよ。


「ラビィの生命力多いね~」

 私は早速覚えたての名前を呼んだよ。


 すると寝癖のラビィは急に頬を赤くしてもじもじし出した。


 なんでっ?


 気を取り直して、猫耳のナナに話しかける。


「ナナは生命力少ないけど、私が多すぎなのかな? 普通の人はどれくらいなんだろね?」


 彼女はぴぴぴっと汗を浮かべて、ゴミ箱の陰に引っ込んだ。そっとこっちを見てるよ。


 なんでなんでっ……!?

 何で二人とも恥ずかしそうなの?


 ひょっとして軽々しく名前とか呼んじゃだめなのかな? 田舎のコミュニケーションは都会じゃ通用しない?


「ご、ごめん。馴れ馴れしすぎた? 私田舎者だからその……」


「いや、全然構わない! アタシは生まれてから友達が一人もいないから戸惑っただけ!」

 ラビィは堂々と告白する。


 ええぇ……?


「うちは8ヶ月くらい誰にも名前を呼ばれてないにゃ!」

 ナナもゴミ箱を抱えて打ち明ける。


 何か複雑そうだね二人とも! 事情が気になるけど、話を聞かせてもらえる時間はあるのかな? 




配信ストリミオ開始……。

 視聴中:教場の上級生』  


 やがてまた新しいメッセージが浮かんで、私たちはゆるみかけた気を引き締めた。


「配信開始ってメッセージが見えるよ?」

「うちもにゃ! 配信が始まってるにゃ!」

「これが配信かッ!」

 3人で口々につぶやいた。




 配信――。

 それは人間が魔法を使うために編み出した、いにしえの秘儀。


 人間は本来魔力を持っていないから、余所から魔力をもらう必要がある。


 そのためのアイテムが精霊石だ。


 精霊石の向こうは精霊界に繋がっていて、精霊たちが私たちのことを見てくれる。


 そして精霊は、私たちを応援したいなって思ったら、魔力を与えてくれるのだ。


 それを投げ魔力スパチャリオンという。


 道化師が投げ銭をもらうようなものだよね。


 魔道士はそうやって、配信で投げ魔力を稼いで、魔法を使うのだ。




「待て待て。『視聴中:教場の上級生』ってどういうことだ?」

 ラビィが表示を気にしてる。


「ゲストの見物人がいるのかな?」

 と私はのんきに答えるんだけど。


って聞いたことあるにゃ。配信を見てるのは上級生にゃ。うちらは上級生にアピールして、

 ナナは事情通らしく、人差し指を立てて説明する。


「あっ、そういうこと? 上級生が採点官なんだね?」

 精霊は本職の魔道士の相手で忙しいから、入試じゃ上級生が私たちの視聴をするってことなのかな。


「ヤバいな、アタシは上級生に怒られるのは得意なんだけど、応援される自信がない」

 ラビィは試験の実情を知って困惑気味だ。


「うちも口下手だから心配にゃあ」 


「それなら私もなまってるからヤバイかもしれないだ」


 それぞれで不安を抱えていると、視界の中に光が走り、上級生のコメントが続けざまに現れた。


『始まったのか!』『1番乗りぃ~~!』『いえーい受験生見てるー?』『待て待て、なんか変だぞ。学園の外が映ってる』『東の路地裏じゃん』『時間もちょっと早いな?』『この子たち何者?』


 私たちの変則的な配信開始に、上級生がざわついてるみたいだった。


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