第4話 学園潜入計画


 寝癖受験生は私の袖を引っ張って、猫耳受験生の隠れている路地の隙間に連れて行く。


「ふにゃっ!?」

 猫耳受験生は怯えたように後ずさる。


「まあまあ。打ち合わせしようぜ」

 寝癖受験生は猫耳受験生に顔を近づける。


「な、なんの?」

 猫耳受験生は気が弱いのか、今にも逃げ出しそうにしてるよ。


 それはそうだよね、私も寝癖受験生が何をしようとしているのか分からないよ?


「受験に潜り込む打ち合わせをしよう」


 あっ、そういうこと? 猫耳の子も仲間に入れようって言うんだね。

 寝癖の彼女、優しい子なんだなぁ~~。

 私は酷く意地悪な目に遭ったばかりだから、その優しさがしみるよ。


「にゃっ? 今から入れるのかにゃ!?」

 猫耳の子は丸い瞳に希望の輝きを浮かべる。


「警備員の目をごまかせば何とかなると思ってる――。問題はどうやってごまかすかなんだけど――。ずっとそれを考えてたんだけど――。知略と謀略歓迎なんだってさ。アタシたちもやっちゃおう」


「何をやるにゃ?」


使。魔法で警備員をごまかそう」


「にゃっ!?」「えっ!?」


 猫耳の子は驚いて耳をぴいんとさせてたし、私も驚いて声を上げたよ。


 完全に予想外の答えだった。

 なぜなら普通の人間は魔力を持っていないから。


 私は魔法を使えるようになるために魔道士になろうと思ったし、魔道士になるには国立魔法学園に合格しないといけないと思っていた。


 猫耳の子も同じ認識だと思う。


 それをこの寝癖受験生は、使と言っている。

 一体どういうことなの? ていうか、そんなこと可能なの?


「学園からアイテムが送られてきただろ? 開封厳禁って書いてある小箱」

 寝癖受験生は私の方を振り返って言う。


「あっ、うん! きたきた。なんか入試で使うから、一ヶ月くらい枕元に置いて、って書いてあった」


「あの箱には精霊石が入ってるんだ。あれさえあれば、誰でも魔法が使える!」


 精霊石……!

 それはこの世界の魔力の源泉。

 人間は本来魔力を持っていないんだけど、精霊石の力を借りることで魔法が使えるようになる。


 でも精霊石の数がものすごく希少だから、精霊石は国が管理している。国立魔法学園に合格した人じゃないと精霊石を使う資格はもらえないことになっている。


 入学試験は精霊石と受験生との相性を図る目的だと聞いているけど……。

 その精霊石が、すでに手元にある……!?


「これが精霊石だったんだ……!?」


 私は上着のポケットから小箱を取り出した。箱には【開封厳禁】の紙封が厳重に貼ってある。


「びっくりだにゃ~」

 猫耳受験生もリュックから小箱を取り出して、【開封厳禁】の紙封をしげしげと眺める。


 何が入ってるんだろうとは思ったけど……。

 魔法の学園なんだからいろいろ謎なこともあるだろうなー、くらいにしか思ってなかった。


 それが最重要アイテムの入った箱だったとは!


「アタシもびっくりしたよ、開けてみてさ」


 言いながら彼女は、【開封厳禁】がビリビリに破れた小箱を取り出した。


「にゃっ!?」「開けちゃったの!?」


「うん……」

 寝癖の彼女は多少しゅんとした表情で唇を尖らせた。


「厳禁って書いてあるじゃない!?」


「無理なんだアタシこういうの。だめって言われると逆にやりたくなる。止められないんだ。怒られたら妹のせいにしようと思ってた。1才の妹に勝手に開けられたってごまかそうと思ってた。妹いないけど……」


 何か色々言い訳してるけど、ちょっとだけヤバい人なのかも知れないなと思った。


「えっと、それで――。どういう魔法で潜入するの? 一応受験勉強で呪文は覚えてきたけど。姿が透明になる魔法はなかったよね……」


「いや、攻撃魔法を使う」


「どうやって?」


「先生とか受験生たちを魔法で攻撃するんだ。無差別に! きっと大混乱になるからその隙に潜り込むんだ」


 くせっ毛の彼女は鼻の穴を膨らまして、得意げに披露するのだけど。


「ほぼ無策じゃん!」「不穏分子の手口にゃあ!」


 私たちはツッコまざるを得ないよ!


「いや、無策ってことないぞ。色々考えたらこれが一番よさげに思える。ただ、一人でやるには手数が足りないからきみたちがいてくれて助かったよ」


「ええ~~~!?」


 やっぱりこの人ヤバくない?


 絶対ヤバイよ……。


 でもやらなきゃ受験出来ないし。


 私は受験しないで帰ることなんて出来ないんだから、この人に賭けてみるしかないのかな?


「わかったにゃあ!」

 猫耳の彼女は小箱の【開封厳禁】をビリッと引き破った。


「やっちゃうの!?」

 私はこのめちゃくちゃな作戦に、まだ迷いがあったよ。 


「怒られて失格になるかも知らないけど、何もやらなくても失格なんよ。だったらやるにゃ。うちは、絶対魔法学園に入るにゃっ」


 それは、覚悟の言葉だった。

 猫耳の子は大きな瞳に涙をいっぱいに浮かべていた。

 私が村の運命を背負ってきたみたいに、彼女も簡単に捨てられないものを背負っていそうだった。


 私は、ちょっとでも躊躇した自分を恥じたよ。


「私もっ!」

 そうだ、可能性があるならやるしかないんだ。どれだけめちゃくちゃな作戦でも。

 ここはもう呑気で穏やかな田舎じゃないんだから。

 王都の荒波に揉まれたら、荒波向けの泳ぎ方をしないといけない。

 こんなところで沈んでいられないよ!


 私は小箱の【開封厳禁】を引き剥がし、蓋を開けた。


 箱の中から、眠りから覚めた生き物のような光があふれ出す。


 中には、光を放つ石の付いたチョーカーが入っていた。


 これが精霊石ッ……!

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