第2話 奇跡の始まり

 受験に来たと思ったら失格だった!

 村のみんなに応援されて、妹とも数年会わない勢いだったのに、もう帰れってこと!?


 はわ、はわ、うゆゃはぁっ!


 私はもう、頭の中ぐっちゃぐちゃ。

 学園の門柱に手をついて、倒れそうになって意識も薄れて、頭の中でパーンって音が聞こえて……。


「目覚めてッ! 時を戻す力っ……!」


 叫びながら、精霊に祈ったよ。

 私は小さい頃から精霊教会に行ってるし、朝な夕なにお祈りしてるから、こういう時くらい奇跡が起きても良いと思ったの。


「お願い、時を戻して! 遅刻はなかったことにしてッッ!!」

 私は門柱に額を押し付けて、祈ったよ。


 そして、そっと顔を上げてみると――。


 時計塔の針は――。


 10時12分。


 いや普通に進んでるし。

 あぁああぁっはあああっ~~!!


 私は門柱に抱きついてじたばたして、端から見たらだいぶおかしな子だったんだけど、そんな私に声をかけてくれた人がいた。


「おっと。きみ、受験生かい?」


 正門の向こうから、赤い髪の女生徒が出てきた。


 髪がくせっ毛で、寝癖まで付いている。小柄で幼く見えるけど、マントを着ててかっこよいし、学園の先輩みたいだった。


「あぅ、そうだ……です……」

 田舎育ちで敬語とか苦手だけど、ちゃんと返事したよ。


「涙目でどうした? 事情があるなら聞かせてよ」


 あーなんだろこの人。親切かな? 親切な先輩かな?


「あの、私……田舎から入学試験に来て……遅刻しちゃったんです! もう1時間以上過ぎてるんです。どうしたらいいだ、ですか?」

 先輩のマントにすがりつきながら問いかけた。


「田舎から来たのかー。王都の道は分かりにくいからね」


「えっと、迷ったんじゃないです。王都には昨日着いて、学園の下見までして、それから宿屋に泊まったんです。準備万端でした」


 モコッチ村の住人はみんなのんびりしてるけど、私はしっかりしてる方なんだよ。


「じゃあどうして遅刻を? ひょっとして寝坊かい?」

 先輩は首をかしげてる。


「寝坊でもないです! 今朝はちゃんと早起きしたんです!」

 私はしっかりしてるから7時には起きたんだよ。


「じゃあ、何があったの? 不慮の事故とか、人助けをしたとか? やむを得ない事情があれば学園も考慮してくれるんじゃないかな?」


「本当に!?」

 ちょっと希望が湧いてきたよ!


「あるのかい? やむを得ない事情が?」

 先輩はきらりと瞳を輝かせ、私を見つめてきた。


「あの、学園に認めてもらえるかは分からないですけど……」

 おずおずと口にする。


「言ってごらん」


 先輩の笑顔は優しい。

 その優しさに促され、私は全ての事情を打ち明けることにした。


「実は今朝、宿屋のおかみさんが頭痛に悩んでるって話を聞いたんです」


「ほほう……。おかみさんの看病をしてきたのかい? 実は命に関わる病気だったってこと?」


「看病まではしてないし、病気の具合もよく分からないです。ただ、頭痛に効くハーブシロップ持ってたから、あげたんです」


 ハーブシロップはモコッチ村の特産品だから、持ってたの。


「ふうん? 貴重なポーションなのかな? それが救命につながったってこと?」


「それも分からないです。ポーションじゃなくて普通のハーブシロップだし。ただ、おかみさんがすごく喜んで――。朝食にパンケーキをサービスしてくれたんです」


「なるほど……。その後に何かがあったんだな?」


「はい……。パンケーキがすごくおいしくて、ペロッと食べちゃったんです。そしたらおかみさんがお代わりもサービスしてくれて、またペロッと食べちゃったんです。そしたらお腹いっぱいになって、『ああ、幸せだなぁー』って思いながらふっと目を閉じて、ふっと目を開けたら、よだれがいっぱい出てて、2時間くらい経ってたんです」


「ただの居眠りじゃん!」


 先輩は嬉しそうに笑って、私のお尻を引っぱたいた。


「眠るつもりはなかったんです。ただ目を閉じただけで……」


「あはははは!」


「どうでしょう? 学園に認めてもらえそうですか?」


「それで通るかもと思ってるあたり、いい根性してる。いいね! アタシが手を貸そう」


「試験受けることできるんですか!?」


 いい先輩に出会って救われた思いになり、ぴょんっと飛び跳ねてしまう。


「それはわからないね。アタシも受験生だから」


 先輩はとんでもないことを言い出して、私は耳を疑った。


「ええっ!? 先輩じゃない!?」


「アタシも遅刻した受験生なんだよ」


「今、学園から出てきたじゃないですか!」


「警備の人に、『遅刻は失格です』って言われて追い出されてきたところなんだ」


「えぇえええ!?」


「大丈夫。一緒にがんばろう、なんとか試験に潜り込む作戦を。ふぁああ……」


 どうやらこの人も寝坊した口のようだった。


「あくびしながら言わないで。あと、寝癖直して!」


 私は動揺しながらも、髪を整えてあげてしまう。






***** 真犯人がいた予告 & あとがき *****



 これが受験一発目のトラブルなんだ――。


 私のこと、バカな子だって思ったよね?


 私もそう思ったし、先輩(のようで先輩じゃなかった人)もそう思ったと思う。


 でもね、私はバカじゃなかった。


 この後――。


 私の居眠りはだったってことが分かってくるの!


 受験戦争は既に始まっていたんだよ……!




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 応援してもらえると、がんばる気持ちが湧いてくるッ……!


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