第余拾参話 降りやまぬ雨
雨はそれから五日も降りつづき、一馬は庵のなかに引きこもっていた。
なにもかもが空しかった。
一流の剣客を目指して修行に励んだ日々は、おのれを豊かにはしてくれなかった。
いや、逆に不幸にした。
曲がらない左膝の痛みはこの天候の影響か、時折ぶりかえして一馬を苦しめている。
「ふう……」
虚空をみつめて溜め息をついた。昨日から食事すら摂っていない。生きる気力そのものが根本から尽きようとしていた。
――と、そのときだ、ふいに庵の戸が叩かれた。
風雨の音かと思ったが、ひとの気配がする。
「勝手に開けて入ってくれ」
ガタゴトと引き戸が軋んで
「まるで死人みたい」
さわが一馬の顔色をみていった。
「ほっといてくれ。嫌みをいうためにわざわざきたのか」
さわから視線を逸らして一馬がいう。さわ自身も活気があるとはいいがたい風情だ。新政府軍が町にやってきて対応に苦慮しているさまは容易に想像できる。
「……店は閉めることにしました」
「……そうか」
としか一馬にはいえない。
さわが語を継いだ。
「……
第余拾四話につづく
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