第余拾弐話 秘剣の正体?!


「こっ、これはッ!!」


 破片をつなぎ合わせるとひとつの図形となった。

 一馬は腰に差していた鎧通しを抜き、目釘めくぎをはずしてみた。この鎧通しは父が絶えず身につけていた形見の品でもある。


「……これが『隠神おんしん』の正体。こんなものが……」


 それは『秘剣』でもなんでもなかった。


「フフ……ハハハハハハ……」


 思わずわらい声をあげた。嗤わずにはいられなかった。こんなものをおれは『秘剣』などどいって追いかけていたのか。


 ――と、そのときだった。

 突然、轟音が響いてきた。庵の屋根が揺れた。


「ッ!」


 痛む左足を引きずり庵の外にでる。

 西の山の端から真っ黒な噴煙が立ちのぼっている。

 ドーン……ドーン……という大砲の重低音が響く。

 遠くで鉄砲の音もする。


「……官軍が……きたのか」


 ぶりかえす痛みに立っていられず、一馬はその場にへたりこんだ。

 黒煙を眺めるその頬に冷たい滴が降ってきた。


(終わったんだ……すべてが)


 おそらく日下も無事ではすまないだろう。もう少し……もう少しときを稼ぐことができていたら作太郎は……。


 雨脚が強まってきた。濡れた頬をさらして一馬はいつまでも西の空を眺めていた。





   第余拾参話につづく





    作者注:雑務繁多のためしばらくお休みいたします。

        再開は27日ごろを予定しております。

        ご期待ください。

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