第余拾壱話 慚愧の念
まさに虫の知らせというやつだった。
あの作太郎が死んだのだ。
一馬ははっきりと悟った。作太郎はおれの弟であったと……。
間違いはなかった。あの剣の冴え。
徹山は、お浜がまだ亭主持ちだったときから関係を結んでいた。そしてできた不義の子が作太郎であった。
だから亭主が死に、店が傾いたころから援助をはじめた。作太郎が
さわの治療によって少しは曲がるようになった左膝がまたずきずきと痛みはじめた。
作太郎に打ちのめされたまま、腐葉土の上にうずくまっていた一馬であったが、なんとか立ちあがり庵のなかへ入った。
壁の棚には父が作陶した茶碗や皿があの日のまま陳列されてある。
それを見ているうちに怒りがこみあげてきた。
棚をひっくり返した。
大切な遺品であるはずの陶器が音をたてて砕けた。
ばらばらの破片と化した陶器の前に崩れ落ちる。
「……父上、あんたが……あんたがすべての元凶だ!」
声にだして怒りをぶちまける。
兄は不自由な体となり、弟は若くして死んだ。
だれも幸せにはならなかった。
さわの話によれば、新政府の政策によって士農工商という身分制度は崩れるという。もうすでにサムライの世は終わったのだ。
なのに、おのれは剣客に憧れた。
父のようになりたかった。
父が編み出したという秘剣――『
だが……。
敬愛した父自身、もとは割れた陶器を修復する焼き継ぎ屋であった。道具を担いで市中をまわるうち、とある剣術道場に拾われ最下級の侍身分を得た。
俗にサンピンと呼ばれる武家奉公人である。
江戸
サムライであること、剣客として生きることが徹山、一馬親子の心の支えであったことは確かだ。
だが、それに固執せず、もっと別の道を生きることができていれば、降りかかる悲劇は避けられたかもしれない。
「……ん?」
目の前に散らばったカケラを見るともなく見ていると、なにかが神経を刺激した。
以前にも感じていた裏底の奇妙な紋様が気になってくる。
割れた陶器を修復した品は、裏底に赤い焼き継ぎ印を
一馬は裏底の破片を拾い集め並べてみた。
すると――
「こっ、これはッ!」
第余拾弐話につづく
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