第余拾話 激闘の果てに…。

 そのまま心ノ臓を貫かれた。


「ぐはっ!!」


 日下の凶刃に貫かれて作太郎は喀血かっけつした。

 自分でも命の火が尽きてゆくのがわかる。

 血涙がこぼれた。

 ……ここまでか。

 結局、おれは勝てなかった。

 作太郎はあらためて日下の顔を見た。


「……ッ!!」


 まさしく悪鬼だ。顔面を朱に染めて嗤っている。

 悪鬼がいった。


「いい腕だ。だが、おまえの剣は……」


 とどめとばかりにさらに刃をねじ込んできた。


「……お上品過ぎるんだよ」


 ぶつり、と音がした。それはおのれの命が途切れる音だ。


(すまない……


 声にならない声を虚空に残して作太郎は旅立っていった。





「ハアハア……ゼエゼエ……」


 まさに気息奄々きそくえんえんの状態となり、日下はその場に膝をついた。斬られた左の脾腹から鮮血があふれでている。


「日下さまっ!」


 そのときだった、側近の一人が青ざめた顔で駆け戻ってきた。


「どうした?」


「や、これは!?」


 側近が血まみれの日下を見て凝然となった。


「構うな! それよりなにがあった?!」


 報告の内容を忘れたかのようにその場に立ち尽くす側近を見て日下が叱り飛ばす。


「なにが起きたのだ! さっさといえ!」


「は…はい。では申しあげます」


 我に返ったかのように側近が口を開いた。


「官軍が、新政府軍が西の柵門を破って乱入してきました!」


「ッ!!」


 目の前が文字通り真っ暗になった。

 胸に湧いた黒雲の正体はこれだったか?


「いま、守備隊が抗戦していますが……」


 そのあとの言葉はもはや耳には入ってこない。官軍は新式銃と大砲で重武装している。不良品をつかまされた日下軍には手向かう術がない。


「……間に合わなかったか」


 日下弦之丞は負けを悟った。

 この隻眼の代官を打ち破ったのは時代であった。




   第余拾壱話につづく

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