第参拾八話 激闘ノ弐

(勝てる……いや、勝った!)


 作太郎は確信した。悪逆を極めた隻眼の代官はいま肩で息をしている。

 一気に十も二十も歳をとったかのようだ。顔は土気色に淀み髪は乱れて白髪が目立つ。足元もおぼつかずふらついている。


(いまだッ!)


 作太郎は間境に踏み込み、下段から逆袈裟に斬りあげる。

 日下の左の脾腹から朱が散った。

 だがまだ浅い。

 さらに踏み込む。

 返す刀で横一文字に薙ぐ。

 今度はかわされた。

 日下は退がるのみだ。

 作太郎はまた怒濤の攻勢をかけた。

 こうなれば手数で勝負だ。


 ――と思ったそのときだった。


 日下が口から大量の血を毒霧のように噴きだした。

 吐血を顔面に浴び、作太郎は思わず飛び退る。

 手で顔に塗られた血をぬぐい、あらためて日下の様子を見た。


「ぜえ……ぜえ……」


 日下の荒い息づかいがここまで聞こえてくる。

 口や脾腹から鮮血をごぼごぼと垂れ流している。立っているのもやっとの状態だ。顔にははっきりと死相がみえる。


「とどめだ!」


 作太郎は大上段に振りかぶり、真っ向唐竹割からたけわりの一刀を振り下ろした。




   第参拾九話につづく

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