第参拾六話 燃えあがる闘気!

 眼前に現れたのは作太郎とかいう浪士隊ただ一人の生き残りであった。

 見たところ十七、八の少年である。

 燃えるような目でこちらをにらんでいる。


「フッ。島帰りの弟子か」


 忍びの報告で作太郎が剣術の修行に励んでいることは聞いている。教えているのは寒河江一馬だ。日下に敗れ佐渡送りの憂き目にあった剣客崩れだ。


「ここへは大滝修蔵の弟子としてきた。大滝先生や仲間の無念を晴らす!」


 作太郎が大刀を抜いた。白刃がぎらりと陽光を跳ね返す。

 日下も応じて鞘を払う。


(む……!)


 正眼に構えた作太郎から火のような闘気が噴きあがっている。ほとんど物理的な圧迫だ。


(……これだったか?)


 先ほど感じた不吉な予感。突然、胸に湧いた黒い不安の正体は、敵意にみなぎるこの少年の気迫だったか?


 ザッ!


 作太郎が仕掛けた。ふさがれた右目の死角を突いてきた。


莫迦ばかめ!)


 予想通りだ。寒河江親子もそうだった。隻眼とあなどり、だれもがおのれの右側から仕掛けようとする。

 攻撃が予想できる相手ほど攻略はたやすい。

 日下が地摺り下段の構えから剣尖を跳ねあげた。

 必殺の刃が正確な軌道を描いて作太郎の逆袈裟ぎゃくけさはしった。




    第参拾七話につづく

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