第弍拾九話 斬り込み

「……見事だ」


 正中線に沿ってきれいに両断された忍びの死体を見て一馬は唸った。作太郎はおのれを凌ぐ剣客に成長している。


「これも先生の教えのおかげです」


 殊勝しゅしょうげに作太郎が頭を下げた。


「しかし厄介だな」


 一馬がつぶやくようにいう。


「なにがですか?」


「この忍びが殺されたことがわかると代官所は本格的に動きだすかもしれん」


 捕り手たちを動員して数で抹殺にかかる恐れは充分に考えられる。どんな凄腕の剣客とて一度に相手できる数は三人までだ。

 群がる敵をばったばったと斬り捨てるなどどいうのは安物の絵草紙えぞうしの世界だけである。


「ならば……」


 強い視線を放って作太郎は一馬を見た。


「こちらから打ってでればいいではありませんか?」




   第参拾話につづく

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