第弍拾六話 深まる自信
作太郎は樹の幹に木刀を打ちつけると枝葉を揺らした。
彼の周りに枯れ葉がひらひらと舞い落ちる。
その刹那――
木刀の剣尖が光った。
音もなく周囲の枯れ葉が寸断された。
原型をとどめた枯れ葉はひとつもない。
恐るべき早業であった。
「ふう……」
呼気を吐いた。
体に
(……おれはここまできた)
師・一馬に一日千回の素振りを命じられ忠実にこなしてきた。
当初は単調な繰り返しに疑問を感じていたものの、次第に作太郎の感覚のなかで目覚めるものがあった。
(剣術は面白い)
そして奥が深いと思うようになった。その魅力に取り憑かれたといってもいい。素振りそのものを楽しめるようになってきた。
ある日、一馬に空心流の秘奥義を尋ねたことがある。
『
――おれも知らぬ。
そっけなく一馬はこたえた。教えてもらう前に父上は死んだ。日下乱蔵こと弦之丞に討たれて……。
そう語った一馬の目は哀しみに満ちていた。
興味はあったもののそれ以上聞き出すのは酷なように思えて作太郎は口を閉ざした。
だがもう、『隠神』などという秘術に頼らなくてもいい。風さえ斬り結ぶ早業を身につけたのだ。おれは充分、隻眼の代官・日下弦之丞と闘える。
そう思ったときであった。作太郎の神経になにかが障った。
(だれかいる!)
研ぎ澄まされた感覚が告げている。
一馬ではない。冷徹な視線を放つ何者かが枯れススキの原の茂みに潜んでいる。
第弐拾七話につづく
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