第弍拾弍話 一縷の望み

「お薬を持ってきました」


 抱えていた小さな風呂敷包みを持ちあげて、さわがいった。


「ご足労かたじけないが、この通り作太郎は――」


 傷が全快したといいかけたところ、


「この薬は一馬さんにです!」


 やや強い調子でさわが言葉を被せてきた。


「おれに……?」


「左足が不自由なのでしょう?」


 確かに一馬の左膝は長年の佐渡暮らしがたたり曲がらなくなって久しい。

 故に一馬自身はあきらめている。いまさら薬のひとつやふたつんだところで治るわけがない。


「やってみましょう。少々心得があります」


 さわが自信を覗かせていった。


「……わかった。世話になる」


どんな妙薬かは知らぬが、この膝が元どおりになるのなら一縷いちるの望みを託す価値はある。


「先生……」


 作太郎が心許ない声をだした。一馬に稽古をつけてもらったその日から、作太郎は一馬を師と仰ぎ、態度も接し方もあらためている。


「素振りをつづけなさい」


 そう命じて一馬はさわとともに庵のなかに入っていった。




   第弐拾参話につづく

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