第弍拾話 決意。
作太郎が柵に手をかけ、よじ登ろうとしている。
一馬はぬっと手を伸ばし、その肩を抑えつけた。
はじかれたように作太郎が振り向く。
なんでここに!……と目が訴えている。
一馬はさらに力をこめて作太郎の肩をわしづかむと低い声でいった。
「落ち着け! もう、どうにもならん」
「しかし!」
「ここで出ていけば犬死にだ」
「…………」
取り囲む群衆の輪が乱れた。あまりにも凄惨な光景に目を背け、柵から離れてゆく。
人肉の焦げる音や臭いが吐き気を催し、その場で
目の前の大滝も炎につつまれ皮膚や骨から異音異臭を放つ。
だが、大滝は一言も苦悶の声を発せず、カッと目を見開いたまま果てた。
(凄い漢だ……)
他の浪士たちが悲嘆や絶叫を迸らせて死んでいったのに比べ、ただひとり大滝だけは
カア……カア……。
上空を旋回していたカラスが飛び去ってゆく。生きたまま火葬にされた罪人たちの死体についばむ肉は残されていない。
残酷な隻眼の代官が床几から腰をあげ、立ち去った。代官所の小者たちが巨大な穴に黒焦げの死体を放り込んでゆく。
「……帰ろう」
その場を動こうとしない作太郎に声をかける。
「……いつまでもこの場にいては不自然だ。ゆくぞ」
一馬は作太郎の腕をつかんだ。
そのときだった、作太郎が一馬の目をまっすぐに見ていった。
「一馬さん! おれに、おれに剣術を教えてくれ!」
第弐拾壱話につづく
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