第拾九話 火刑

 辰峰郷の北端にある刑場にいってみると、柵の周りに黒山の人だかりができていた。

 柵のなかでは、磔柱はりつけばしらが十数台と据えられ、罪木に縛り付けられた浪士たちが一様に首をうなだれている。


 その顔にもはや生気はない。とうに覚悟を決めた表情だ。


(あれは……?)


 一馬は視線を磔台の下に移した。どの柱の下にも薪が置かれている。磔刑たっけいといえば槍で突くものばかり思っていたが、どうやら違うようだ。


(火刑に処す気か?)


 一馬は柵の向こう、切り立った崖を背景にどっかと床几に腰を下ろしている日下弦之丞を見た。


「ッ!!」


 隻眼を光らせ薄ら笑いを浮かべている。


(なんという残酷なやつだ!)


 浪士たちは放火犯ではない。なのに火あぶりにかけるということの意味はただひとつだ。

 火に炙られ、じわじわと苦しんで死んでゆくさまを楽しみたいのだ。


 一馬は磔柱の中央に大滝修蔵の姿を見た。

 髭は伸び放題で憔悴しょうすいしきっている。過日出会ったときとは別人のようだ。


「火をつけよ!」


 日下弦之丞がじきじきに命令を下した。

 役人たちがいっせいに薪に火をつける。

 苦鳴とも絶叫ともつかぬ声が漏れる。それは見ている群衆の間からも漏れ、咆哮のようなどよめきとなって辺りを圧する。


 一馬は人だかりをかき分け、作太郎の姿を探した。


(いたッ!)


 大滝修蔵の磔柱の正面に位置する場所に陣取っている。

 人肉の爆ぜる臭いが漂ってきた。

 作太郎が柵に手をかけた。


(まずい!)


 一馬はさらに人だかりをかき分け、前にでる。

 この残酷な火刑は残党をあぶり出す罠でもあるのだ。




   第弐拾話につづく

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