第拾七話 無謀なる企み

「つまり日下は、この辰峰で自ら王になるつもりなのか?」


 思わず聞き返した。新政府にも旧幕府にも干渉されない第三の勢力として日下王国を建設し君臨しようという野心……いや、無謀な企みを抱いているということなのか?


「どうやらそのようだ。やつは誇大妄想に取り憑かれているのさ」


 作太郎が吐き捨てるようにいった。先ほどから顔をしかめている。怒りとともに右腿の痛みもぶり返したようだ。


「……そんな企みがうまくゆくはずがない」


 一馬はまっすぐな視線で作太郎を見た。


「だから……なんだよ」


 いいたいことがわかったのか、作太郎は一馬から目を逸らす。


「遅かれ早かれ、日下弦之丞は死ぬ。討たれる運命だ」


 早まった暗殺などするべきではなかったのだ。時代が、刻が、日下を許してはおかないだろう。


 案の定、作太郎はかっと目を剥いてにらみつけてきた。


「じゃあ、それまでおとなしく待っていろというのか?

 あいつのせいで何人死んだと思っているんだ!

 おれの母ちゃんだけじゃない。あんたの親父もそうだし、辰峰の侍たち、町人や百姓、多くの人間が非業の死を遂げているんだ!

 来るか来ないかわからない官軍なんかを当てにしてたら、この辰峰は無人の荒野になっちまう!」


「…………」


 反駁はんばくはできなかった。他人任せの敵討ちに意味はない。一馬自身、できればこの手で父親の仇を討ちたいと願っている。ただ、この左足が不自由でなければの話だ。



 沈黙がわだかまる。

 一馬は片足一本で立ちあがると夕餉の仕度にとりかかった。

 その様子を見て作太郎が声の調子を落としていった。


「……その足は本当にもう……」


 それには答えず、一馬は雑炊をつくりはじめた。




   第拾八話につづく

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