第拾参話 憎しみの山道
険しい山中の
「大丈夫か?」
心配になって手を差し伸べると、作太郎は一馬の手を振り払った。びしっという乾いた音が響く。
結局、さわの屋敷には二日程度しか世話になることはできなかった。
作太郎が「こんな家にはいたくない」と意固地になったからである。
それに屋敷も完全に安全とはいえない。
使用人や出入り商人の間から漏れる可能性もある。噂が立てば、いくら代官の息がかかった薬種問屋といえど捕り手たちは踏み込んでくるだろう。
「あんたが、あの女とつながっているとは思わなかった。おれたちの計画を漏らしたのもあんただろう」
怒りと憎悪のこもった目で作太郎がにらみつけてきた。
足元に目を移すと右足から血が滴り落ちている。傷口が開いたようだ。
「計画を漏らしたのがおれなら、なんでおまえを助けるんだ?」
「それは……」
「そもそもどういった計画かは知らん。おれは佐渡ヶ島からここに着いたばかりだ。日下乱蔵、いや日下弦之丞が代官を務めていたなんてことも初めて知った」
「…………」
憎しみのあまり作太郎は安易な答えにとびついて納得を得ようとしている。心を閉ざした作太郎になにをいってもいまは無駄だろう。
「ううっ!!」
作太郎が突いていた杖を倒してうずくまった。痛みがぶり返したようだ。
「しょうがないやつだ」
「やめろ、なにをする!?」
一馬は作太郎を無理やり背負いあげた。
すると――
「ッ!!」
作太郎は一馬の鎧通しを奪いとり、背負われた格好のまま喉笛に刃を突きつけた。そのまま平行に滑らせれば一馬から盛大な血潮が噴き出るであろう。
「やりたければやるがいい」
「……………」
喉笛に刃をあてがわれたまま一馬は山道を登った。
不自由な片足を引きずり、ただひたすら登りつづけた。
第拾四話につづく
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