第拾話 死に場所
作太郎を救いに火の見櫓に向かうと、すでに捕り手たちが櫓の根の辺りに殺到していた。
一馬は腰に差していた鎧通しを抜いた。狭い路地での戦闘は小太刀の方が有利である。縮地ノ術を遣って飛び込むと櫓のはしごにすがった彼らの足首を薙ぐ。
ふいの加勢の出現に捕り手たちが文字通り浮き足だった。すねや踵の腱を斬られて捕り手たちがぽろぽろと落下する。樹液をすすりにきた虫が逆に毒をくらったかのようだ。
降りるに降りられず、はしごの途中で立ち往生していた作太郎に手を貸して下ろしてやる。
一馬は左脚が不自由なので思うようには走れない。作太郎もどこか傷を負ったようだ。のろのろと二人、迷路のような町家の路地裏を縫って歩く。
そうこうするうち、どんづまりの路地裏にきてしまった。その先は高い板塀に遮られ、もう逃げ場がない。新たな捕り手たちの足音が迫り、
作太郎は刀を持っていない。弓で仕留めるという絶対の自信があったのだろう。その弓矢も逃げる途中で放り出してしまい、いまは
(……ここがおれと作太郎の死に場所か)
一馬が覚悟した、そのとき――
傍らの長屋の戸が開いた。
なかにいたのはさわだ。
「さわさん!」
「こっち! こっちへきて、早く!」
手招かれるまま長屋のなかに入る。そこは荒れ果てた無人の住居だ。
長屋の一画を突っ切ると堀割の岸壁にでた。そこに小舟が一艘、杭に
さわは一馬と作太郎を小舟に乗せると舫い綱を解き、自らも乗り込んで棹さし岸壁から離れた。
「うう……」
作太郎が右足を抑えて苦鳴をあげた。腿裏の辺りから鮮血が流れて血溜まりができている。
火の見櫓を降りようとしたとき捕り手に足を斬られたようだ。
「我慢してください。ウチへ着いたらすぐ手当をしますから」
さわが落ち着いた声音でいった。
そうだ、さわの嫁ぎ先は春陽堂という薬種問屋であった。
第拾壱話につづく
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