第九話 漏れていた計画

 弓弦ゆづるの音が響いて矢は放たれた。

 作太郎の腕は確かだ。それは一馬自身が体験済みだ。

 大業は成った。奇しくも作太郎が父・徹山の無念を晴らしてくれたのだ。


 そう確信したのも束の間、信じられぬことが起こった。

 高速で飛来してくる矢を日下が片手でつかんだのだ。

 まるで目の前のハエを捕らえるかのように。

 無造作かつ俊敏な動きで。


 ざわめきが巻き起こった。

 通りにひれ伏すものはもちろんのこと、浪士隊の面々、彼らを率いる大滝までもが目を見開いている。

 いや、一番驚いたのは櫓の上にいる作太郎自身であろう、遠くに見える人影は固まったかのように佇立している。


「ッ?!」


 嫌な臭いがする。一馬はわずかに漂う火薬の臭いに気がついた。

 ハッと振り仰ぐ。

 町家の二階の窓がいっせいに開け放たれ、そこから銃口が突き出てきた。火縄銃の銃口だ。


 通りの端にひれ伏していたものたちが悲鳴をあげた。そのまま後ずさり、我先にと路地裏に避難する。


 一馬は視線を前方に移した。

 大滝が唇を噛んでいる。計画は事前に漏れていたのだ。

 日下がつかんだ矢を軍配代わりにして振り下ろした。

 銃口がいっせいに火を放つ。

 浪士隊のものたちがばたばたと人形のように倒れてゆく。

 通りの浪士隊に向けられた銃口のひとつが火の見櫓に向いた。明らかに作太郎を狙っている。


「まずい!」


 大滝は立ちあがると左足を引きずるようにして駆けだした。

 なんとか作太郎だけでも救い出さねば!




   第拾話につづく

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