第六話 歳月。
「さわ……さん」
そういったまま次の言葉がでてこない。
あかぬけない山だし娘であったさわが、洗練された大人の女性に変貌している。十二年の歳月はひとをこんなにも変えるのか?
「おとっつあんの七回忌なのでお花を供えにきました」
口調も大人びており、物腰も柔らかい。一馬はただ
「よくご無事で……」
さわが痛ましげに目を伏せた。
「無事ではない。片足が不自由になった。もう、あのときのおれではないよ」
自嘲の笑みを口辺に刷いて一馬はいった。
「わたしも、あのころのさわではありません」
「……そのようだ。どこぞの
情けないと思いながらもつい探るような口調になった。わざわざ訊かなくてもいいことだ。
「
春陽堂――うっすらとだが聞いたことがある。独自の庭園を持ち、幾多の薬草を栽培。辰峰藩の領家にも卸していた由緒ある薬問屋だ。
「では、御免」
一馬はさわの傍らをすり抜けようとした。これ以上、かわす言葉はない。いまの一馬は島帰りの敗残者そのものなのだ。
さわの視線を背中に感じながら一馬はその場を去った。曲がらない左足を無様に引きずりながら……。
第七話につづく
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