第参話 問答無用!

「お浜の息子、作太郎さくたろうだッ!」


 その若者は叫んだ。刃を喉元に突きつけられながらも怯んだ様子はない。それどころか憎しみにたぎった瞳で一馬をにらみつけている。


「作太郎……」


 父・徹山が面倒をみていた、お浜の息子が精悍な若者に成長し、あろうことか己を仇と見定めていたとは……。


「作太郎、聞いてくれ。おれはお浜さんを殺してはいない。濡れ衣だ」


「問答無用!」


 作太郎は刃を振り払うと飛び退った。

 再び距離をとって矢をつがえる。

 と、そのとき――


「やめろッ!」


 どこからか声がかかった。

 丈高いススキの葉を払って何者かがゆっくりとした足取りでやってくる。

 裾を絞った武者袴を穿いた長身の武士だ。大刀を腰に帯びている。歳は四十を過ぎた辺りか。


「寒河江徹山先生のご子息、一馬どのでござるな」


 武士がいった。射るような視線でまっすぐ一馬を見つめている。


「そうだが、あなたは?」


 一馬が問い返す。なぜ、この男は父を知っているのか?


「わたしは元・辰峰藩の剣術指南役をしておりました、大滝修蔵おおたき・しゅうぞうと申すもの。

 お父上の徹山先生は、たびたびわたくしの道場に出向いてくださり小太刀の術をご指導してくださいました」


「父が……」


 意外であった。人嫌いの父親が他人の道場に出向いて稽古をつけていたとは。


「その鎧通しに見覚えがあります。お父上は絶えずそれを腰帯の後ろに差していらっしゃいました」


 一馬はしばし鎧通しを見つめると無言で鞘に納めた。どうやらこの男に敵意はないようだ。


「大滝先生、なぜ止めるのです。こやつはにっくき母の仇!」


 仇討ちを制止され、作太郎が大滝に向かって噛みつく。

 静かな口調で大滝は返した。


「冷静になれ作太郎。この方はお浜どのを殺めてはいない」




   第四話につづく

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