第弐話 意外なる刺客

 一馬は反射的に身を翻した。

 なにかが壁に突き刺さり、戸棚が崩れて陶器が散乱した。

 板壁に突き刺さったそれは矢であった。

 庵の外から武者窓の格子を縫って第二、第三の矢がそれこそ矢継ぎ早に打ち込まれてくる。


(さては刺客かッ!?)


 日下乱蔵の手のものだろうか? 佐渡帰りの敗残者など捨て置いても支障はないはずだ。いまさら命を付け狙う理由がわからない。


 一馬は縮地しゅくちノ術を遣って庵から外へ飛び出した。縮地は膝のばねをつかわない。前方へ倒れる勢いを利用して右足の踵へ左足の先を打ちつける走法だ。


 飛燕のような速影に襲撃者が戸惑ったようだ。

 矢をつがえた刺客が照準の先を捉え直す。


 一馬は戸棚にあった、これも父の遺品の一つである鎧通よろいどおしを手にしていた。

 鎧通しを抜き、草地を前転して転がると襲撃者の背後にまわった。

 襲撃者が振り向く。

 それより一瞬速く一馬は襲撃者の喉元に刃を突きつけた。


「ッ!?」


 青ざめた襲撃者の顔をみて一馬はなにかに思い当たった。

 どこか見覚えのある顔だ。まだ少年といっていいあどけなさを宿している。

 まさか、このものは……!

 一馬はおそるおそる口にした。


「おまえ、まさか……?」


 父・徹山が面倒をみていたお浜の子、作太郎に顔立ちが似ている。

 いや、間違いない。

 襲撃者――作太郎が声を張りあげた。


「そうだ、おまえに殺された、お浜の息子、作太郎だッ!」




   第参話につづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る