Chapter8
第40話 風紀委員の鷹宮さんは、僕に秘密のお願いをしたい①
「……………………」
数分、いや、もしかしたら数時間経っただろうか?
僕は未だに、目を閉じても夢の世界へ旅立つことができずにいた。
眠たくないわけじゃないし、疲れているのも本当だ。
だけど、同級生の女の子が自分の家で寝泊まりをしているんだと思うと、やっぱり意識しないというほうが無理な話ではないだろうか?
それに、
別に夜更かしくらいなら、いつもやっていることだけど、心が落ち着かないのは、どうにかしたほうがいいかもしれない。
スマホの明かりに目を細めながら時刻を確認すると、時刻は午前2時と表記されている。
「本当に寝付けてなかったんだな、僕……」
そんな愚痴をこぼしつつ、僕はベッドから降りて自分の部屋から出て行く。
何か、お茶でも飲んで一息吐こうとしたのだが……。
「……あれ?」
リビングから、わずかな光が漏れていることに気付く。
もしかして、僕と同じように綾が起きて来たのかと思って、僕はドアを開けた。
「……! ふ、
すると、キッチンの近くで、驚いた表情を浮かべた鷹宮さんがこちらを見ていた。
「ご、ごめん……! びっくりさせちゃった……かな?」
「い、いえ。そんなことは、ありませんが……」
慌てて謝罪をする僕に対して、鷹宮さんは恥ずかしそうに自分の髪を触って僕から視線を外す。
その様子を見ていると、やっぱり僕がドアを開けた物音でビックリさせてしまったようだ。
だけど、それを追求するのは少し申し訳ないので、代わりに別の質問をする。
「鷹宮さん、もしかして、寝付けなかったりする?」
「……はい。恥ずかしながら、他の方の家に泊めて頂くというのは初めてのことで、緊張してしまうといいますか……」
言い淀みながらも、鷹宮さんはそう僕に告げる。
「なので、少し落ち着こうと思って飲み物を頂こうかと思ったんですが、勝手に頂いていいものかと悩んでしまって……」
「えっ? そうなの? そんなの、別に気にしなくてもいいのに……」
思わずそう言ってしまう僕だったが、逆の立場で考えた場合、僕も冷蔵庫を勝手に開けたり、コップを使ってしまうことに少し抵抗があったかもしれない。
でも、逆に考えれば、このタイミングで僕もキッチンに来て良かったかもしれない。
僕は食器棚からグラスコップを2つ取り出して、そこに冷蔵庫で冷やされた麦茶を注いで鷹宮さんに手渡した。
「ありがとうございます」
そういって、グラスコップに口をつけて、少しずつ麦茶を飲んでいく鷹宮さん。
なんだか、その姿も絵になるというか、ちょっと色っぽさを感じてしまった僕は、それを誤魔化す為に鷹宮さんに話題を振る。
「えっと、鷹宮さん。綾が迷惑かけたりしなかったかな? なんだか、すっかり鷹宮さんにベッタリみたいだから」
すると、鷹宮さんはグラスコップから口を外し、照れくさそうに答える。
「ベッタリ……かどうなのかは分かりませんけど、私のことを気にかけてくれるというのは、素直に嬉しいですよ」
そう言ってくれる鷹宮さんの口調がとても柔らかったので、多分、僕に気を遣って言ってくれた訳ではなさそうだ。
「そっか、良かった。ちょっと話し声が聞こえていたから、綾が鷹宮さんに迷惑をかけていないか、ちょっと心配だったんだ」
「えっ!? き、聞こえていたんですか!?」
すると、僕がリビングのドアを開けた時以上のリアクションをみせる鷹宮さん。
「え、えっと……具体的には、どの程度聞いていたのでしょうか……?」
そして、今度は恐る恐ると言った感じで、僕に問いかけてくる。
「い、いや……ちょっと話し声が聞こえるなぁ~くらいで……。あっ! うるさかったとか、そういうんじゃないから!」
多分、普段より僕も神経が研ぎ澄まされていたからだろう。
自分の部屋のベッドの横になっていても、なんとなく綾が鷹宮さんに話しかけているような声が、しばらく聞こえてきていたのだ。
でも、さすがに内容までは把握できていない。
「そ、そうですか……」
すると、ほっとしたように息を吐く鷹宮さん。
そして、再びグラスコップに口を付けた際は、残っていた麦茶を一気に飲み干していた。
もしかしたら、何か僕に知られたくないような話の内容だったのだろうか……。
少し気になるけれど、あまり詮索はしないでおこう。
「……ですが、不思議ですね」
すると、今度は空になったグラスコップを見つめながら、鷹宮さんが口を開いた。
「私たち、ちゃんと話したのも最近なのに、こうして夜中に顔を合わせて話しているなんて……」
「……そうだね」
思えば、最初に話したときなんて、僕は鷹宮さんから校則違反をして怒られてしまっているのだ。
「怒ったわけではありません。注意を促しただけです」
「でも、僕、漫画が見つかったときは、本当に怖かったな……」
今まで、特に問題を起こしたことがなかったせいもあって、鋭くこちらを見る鷹宮さんの視線に怯えていたことを思い出す。
でも、これからはそんな風に、鷹宮さんを怖いと思うことはないと思う。
「…………藤野くん」
だが、鷹宮さんはいつもより声のトーンを落として、僕の名前を呼んだ。
そこで僕は我に返り「余計なことを言ってしまったんじゃないか」と心配になってしまう。
さすがに、少しは仲良くなったからといって、女の子に『怖かった』なんて言うのは失礼だったんじゃないかと、今更ながら反省する。
彼女は身体を僕のほうに向けて、ぴたりと止まる。
顔はうつむき、髪の毛の影のせいでどんな表情をしているのか分からない。
「……あの」
そして、パッと顔をあげると、少し頬が赤くなった鷹宮さんが、僕に言った。
「私のお願いを、聞いていただけないでしょうか?」
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