第41話 風紀委員の鷹宮さんは、僕に秘密のお願いをしたい②
「ど、どうぞ……」
「は、はい……。では、失礼します」
僕が促すと、
――部屋の中。
つまり、僕が鷹宮さんを案内した場所は、妹の綾の部屋ではなく、自分の部屋だった。
そして、室内に案内された鷹宮さんは、珍しそうに僕の部屋を眺めている。
別に、変なものは置いていないはずだけど……やっぱり女の子に自分の部屋を見られるというのは恥ずかしさがあった。
「鷹宮さん、えっと……好きなところに座って」
「あ、は、はい……」
僕に言われて、鷹宮さんは少し悩んだような様子で辺りを見たあと、学習机の前にある椅子に腰を下ろした。
「…………っ」
ただ、鷹宮さんは椅子を座ったあとも、落ち着かない様子でそわそわしている。
多分、僕以上に鷹宮さんも僕の部屋に訪れることに緊張していたはずだ。
そんな鷹宮さんの為にも、彼女のお願いを聞いてあげなくてはいけない。
僕は、部屋にある本棚に手を伸ばす。
今まで集めてきた、ゲームのパッケージや漫画、ライトノベルの本が収納されている本棚。
そこから、僕はある漫画を取り出して、それを鷹宮さんに渡した。
「はい、鷹宮さん」
そして、その漫画の表紙を見た鷹宮さんの表情が、ぱあっ、と明るくなる。
「あ、ありがとうございます……!」
興奮した様子だったけれど、真夜中なのでちゃんと声を抑えていたのは鷹宮さんらしいといえば、鷹宮さんらしい。
僕が鷹宮さんに渡した漫画。
それは、鷹宮さんが学校で僕から取り上げた『エンジェルロマンス』、通称『エンロマ』と呼ばれるラブコメ漫画だった。
つい数分前。
鷹宮さんが僕にお願いしてきたこととは、『エンロマ』を読ませてくれないか、というものだった。
でも、あの緊迫した雰囲気で切り出されたものだから、正直、僕は暫く呆然としたまま口をポカンと開けてしまったくらいだ。
そのことを話すと、『エンロマ』を手に取ったままの鷹宮さんが少し不満そうに呟く。
「し、仕方ないじゃないですか……! その、少し恥ずかしかったというのもありますし……」
そう告げる鷹宮さんの意見は、確かに分からなくもない。
以前も少し説明したけど、『エンロマ』は少年誌に掲載されているものの、サービスシーンが肌色多めで描かれることで有名な作品だ。
真面目な鷹宮さんからしたら、そのような作品を読みたいということ自体、勇気が必要なことだったのだろう。
僕だって、初めて本屋さんで『エンロマ』を購入した時は、ちょっと恥ずかしかったくらいだし……。
しかし、それでも鷹宮さんは勇気を振り絞って、僕に『エンロマ』を読みたいと言ってくれたのだ。
「あ、あの、
「うん、もちろん」
ただ、やっぱり鷹宮さんの中では、他人には知られたくないことらしい。
まぁ、最近はサブカルチャーに偏見がなくなってきたとはいえ、本人が知られたくないというのなら、当然僕から話すことはない。
いくら三枝でも、僕の部屋の出来事を把握することなんて出来ないはずだ。
「でも、興味を持ってくれてたなんて思ってなかったから、『エンロマ』を読みたいって言われたときは、ちょっとビックリしたよ」
「それは……私だって、興味がなければ、あんなに集中して読んでいません」
鷹宮さんが言っているのは、僕たちに没収した『エンロマ』を読んでいたときのことだろう。
「本当は……ずっと気になっていたんです。ですけど、自分で買うのは躊躇ってしまいましたし、藤野くんにこうしてお願いするのだって緊張したんですから」
「……そっか」
「……何か言いたい顔をしてますよ、藤野くん」
「え!? そ、そんなことはないよ!?」
本当は、ちょっと可愛らしい悩みだなと思ったのだが、今度は本当に鷹宮さんに怒られてしまいそうなので、今回は自重することにした。
そして、もう僕からの会話のラリーが終わったと判断した鷹宮さんは、受け取った『エンロマ』の第1巻を開き、じっとページを見つめて読み始めた。
……思えば、鷹宮さんのこの姿を見たのは2回目ということになる。
あのときは、見てはいけないものを見てしまったという罪悪感があったけれど、今の鷹宮さんの姿は、ページを読むたびに微妙に変化していて、ちょっと面白い。
出来れば、このまま鷹宮さんを見ていたいなんて思うけれど、あまり集中力を欠くようなことをしないほうがいいなと思った僕は、彼女の邪魔をしないように、ベッドの上でじっとしておくことにした。
『エンロマ』の漫画は、今発売しているもので全6巻ある。
多分、今日中に全部読むのは難しいと思うけど、鷹宮さんが1巻を読み終わった後は、少しだけ感想を語りあえればいいなと、そんなことを願う僕だった。
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