第5話 風紀委員の鷹宮さんは、風紀の乱れを許さない④
「
思わず、僕はそう問いただしてしまった。
「ち、違いますっ!! 私、中身なんて見ていません!」
咄嗟のことだったからなのか、僕の質問とは全く違う回答を口にする鷹宮さん。
「わ、私はただ! どんな内容なのかチェックしようと思っただけで……! 決して、こういったものに興味があった訳ではないんですっ!」
さらには、聞いていないことまで喋ってしまう鷹宮さんだった。
ただ、僕はなんとなく、どうしてそこまで鷹宮さんが慌てているのか、大方の予想がついていた。
というのも、『エンロマ』は少年誌で掲載されていながらも、他のラブコメよりも少し……いや、かなりサービスシーンの多い内容なのが特徴だ。
特に、最新刊だと表紙も飾っているヒロイン天使のミカちゃんが力を失いかけ、それを助ける主人公の
戸惑くんの手が触れるたびに、ミカちゃんは身体を歪ませて彷彿とした表情になってしまい、さらには儀式の関係上、ミカちゃんは一糸まとわぬ姿で悶えているのだ。
雑誌で掲載されたときには、あまりに攻めた内容だとしてネットで話題になったりもしたその話数が、なんと加筆修正されて単行本化されているのだから、それを喜ばないファンなどいるはずもなかった。
おそらく、鷹宮さんの反応から察するに、そのシーンを読んでしまったのだろう。
僕や
いわば、自分の部屋でエッチな本を読んでいるときに母親に入ってこられたようなものだ。
「だ、大丈夫だよ! 鷹宮さん!」
ならば、今の僕にできることは、そんな精神状態の鷹宮さんを落ち着かせることだ。
「別に僕は全然気にしないっていうか……! むしろ、鷹宮さんの仕事の邪魔をしちゃったんだよね! 僕たち!?」
「…………えっ?」
「だって、鷹宮さんの言う通り、没収したものがどんなものだったのか確認するのって普通のことだと思うし……」
「藤野くん……」
一瞬、瞳の中で何かがきらりと煌めいたようにも見えたが、鷹宮さんはすぐにいつもの鋭い眼光へと戻り、僕に言った。
「そ! そうですよ! こんな過激な描写が入った漫画を持ってくるなんて不純ですっ!」
「お、仰る通り……」
それはまさにその通りで、鷹宮さんの中では僕は『そういうエッチな本が好き』な人間に認定されてしまったかもしれない。
ただ、誤解がないようにいうと、『エンロマ』の人気は、過激な描写だけでなく、異種族間の平和と愛の物語も人気の秘密の1つとなりファンが多いということを語りたいところだけど、おそらく、そんな猶予は僕に残されていないだろう。
「……なので、この本はもう少しだけ風紀委員で管理させてもらいます。いいですね?」
結局、今朝と同じような展開になってしまったが、そればかりは仕方がない。
ここは、鷹宮さんの気持ちも考えて、僕たちはすぐに退席したほうがいいだろう。
……ん?
というか、三枝がやけに大人しい気がするのだが……。
「あっ、先輩、話終わりました? いやあ、いいシーンが撮れちゃいましたね~」
「さ、三枝……?」
声がしたほうへと目を向けると、三枝はいつの間にか会議室の隅のほうへと移動していた。
てっきり、ずっと僕の横にいたと思っていたのだが。
「あっ、あなたは……!」
そして、それは鷹宮さんも一緒だったみたいで、三枝の姿を確認して驚いていた。
あんなに大声で会議室に入っていったのに、認識されないように視界からフェードアウトするって、一体どういう技術なんだろうか?
そんなところで、変な特殊能力を発揮しないでもらいたい。
ともかく、一体いつからそんな場所に……と、突っ込もうとしたところで、彼女がスマホを僕たちに向けながら悪そうな笑みを浮かべていることに気付く。
「もうお話いいんですかぁ? もうちょっとカメラ回してもいいんですけどぉ~?」
そして、猫撫で声で僕に話しかけてくる。
ああ、三枝がこういう口調をするときは、決まって彼女が何かを企んでいるときなのだ。
いや、っていうか、今、カメラって言った?
「はい、そうです。さっきの先輩のやり取りと、鷹宮さん……と仰いましたっけ? それをアタシのスマホでばっちり撮影させてもらいました~」
いきなり、そんなことを言いだす三枝。
というか、鷹宮さんのこともちゃんと知ってるって言ってたのに、何故わざとらしく知らない人っぽく言っているのだろうか。
なんとなく、そういう部分にも悪意を感じるのだが……。
「さ、撮影って……!?」
しかし、当の本人である鷹宮さんは、そこには全く引っ掛かっておらず、むしろ、別の部分で恐怖を感じているようだった。
「あっ、さすがは風紀委員さんですねぇ~。というより、さっきまでやましいことをしてた人だから、なんとなく想像ついちゃいました?」
にやぁ、と、笑みを浮かべた三枝。
そして、次に発せられた言葉は、とんでもない内容だった。
「それじゃあ、風紀委員の鷹宮先輩が、1人でこっそりエッチな本を読んでいた姿を、世界中に発信しちゃいますね。あ、それ、ポチッとな!」
その瞬間、僕は確かに、鷹宮さんの喉から漏れた悲鳴と、三枝の勝ち誇ったような笑い声が重なったのだった。
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