第6話 風紀委員の鷹宮さんは、風紀の乱れを許さない⑤
「――なーんて、冗談でした~! パッパパ~ン!」
緊張感が漂う中、一人だけ場違いなほど明るい声を発しながら、
「もう~、
だったら大成功~、と暢気に笑っている三枝だが、鷹宮さんはまだ混乱しているのか暫くは固まってしまっていたが、すぐに状況を理解して声を荒げる。
「さ、三枝さん! そういう冗談は、やっていい事と悪いことがありますっ!!」
鷹宮さんの額には、うっすらと脂汗が滲んでいた。
「でも、鷹宮先輩のその反応……。やっぱり、そういうことを知られちゃうのはマズい感じなんですか?」
「あ、当たり前です! いくら捏造だとしても……もし、先ほどのあなたの発言と合わせて発信されたら、誤解する人たちだっているかもしれないじゃないですか……」
「誤解? へぇー、誤解……ですか……」
鷹宮さんの叱咤にも全く動じる様子のない三枝は、シニカルな笑みを浮かべたまま、彼女に告げる。
「でも、
「そ、それは……!」
「言っておきますけど、カメラで撮影していたのは本当ですから」
そういって、僕たちにも見えるように突き出したスマホの画面には、確かに『エンロマ』の漫画を持っている鷹宮さんの姿が映っていたし、先ほどの僕とのやり取りもばっちり録画されてしまっていた。
直接、鷹宮さんが漫画を読んでいるような描写はないものの、僕との会話のせいで、この映像を見た人は、十中八九、鷹宮さんが『エンロマ』を読んでいたと判断するだろう。
「……ッ!」
鷹宮さんも、僕と同じ結論に至ったのか、顔を真っ赤にしながら三枝を睨む。
だけど、それは『ホークアイ』なんて揶揄させるような、相手に有無を言わせぬ鋭い視線とは程遠い。
どちらかといえば、子供が必死で泣くのを我慢しているような、そんな状態だ。
「ふっふっふっ! さぁ~、どうしましょうかねぇ~、これ~」
一方、三枝は完全に悦に入ってしまっていた。
「困りましたねぇ鷹宮先輩~。こういうとき、どうすればいいと思います?」
その質問だけで、僕は鷹宮がこれから行おうとしていることが、なんとなく察することができた。
「……私を脅すつもりですか?」
そして、それは鷹宮さんの同じだったようで、
「要求はなんですか? この漫画を返して欲しいのですか? それとも、普段のあなたの生活態度に口を出さない、などですか?」
そう質問する鷹宮さんだったが、三枝が答えるよりも先に、鷹宮さんは言った。
「……もし、そんな要求でしたら、私は全力で拒否をします」
鷹宮さんは、胸に手を当てながら、僕たちに向かって宣言する。
「私は、自分が風紀委員だということに誇りを持って活動しています。そんな脅しなんかで、屈するつもりはありません」
「鷹宮さん……」
その言葉は、先ほどまでの弱っていた鷹宮さんとは違う、確かな意思だった。
「……へぇ。流石は次期風紀委員長候補の
しかし、三枝は鷹宮さんに更なる脅しを口にする。
だが、なんで僕のSNSのフォロワー数まで公表したの?
言われると余計悲しくなるし、何より鷹宮さんに知られるのが恥ずかしいんだけど。
「…………構いません」
しかし、鷹宮さんは僕のSNSのフォロワー数なんて全然気にしなかったようで、きっぱりと三枝の脅しを蹴った。
「これは私の失態です。もし、噂が広まって私が風紀委員として相応しくないと判断されれば、それは仕方のないことですから」
ああ。
なんてカッコいい人なんだと、僕は自分の立場も忘れて、そう思ってしまった。
きっと、みんなはただ、鷹宮さんを怖い人だと思っているかもしれない。
だが、僕はそれが間違いであることが、はっきりと分かってしまった。
鷹宮さんはただ、自分が正しいと思うことをやっていて。
どんな状況に追い込まれても、それを曲げることがない、強い人なのだ。
だから、たとえ自分の立場が危ぶまれるようなネタを掴まれ脅されようと、僕たちの要求に対して、首を縦になんか振らない。
「三枝……!」
そして、そんな鷹宮さんに対して、僕からできることは1つしかない。
「やっぱり「こんなことは良くないよ、とか甘っちょろいこというのが先輩ですよねー」
まさかの被せで僕の言いたいことを言われてしまった!
せめて最後まで聞いてから返事してくれませんかね!?
「はいはい、分かってます分かってます。どうせ、先輩が日和ってこんなこと止めようとか言い出すのは計算済みですよ」
至極面倒くさそうに、ため息を吐く三枝。
「だから、アタシが鷹宮先輩に要求することは、全然違うことですって」
暢気な声を出す三枝だが、僕と鷹宮さんはお互い顔を合わせて動揺する。
「いえ、だからですね。アタシが鷹宮先輩に頼みたいのは~」
しかし、そんな僕たちに向かって、三枝が宣言する。
「鷹宮先輩に、我が同好会を救って欲しいんです」
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