第5話 死後の話

 2006年の年明け。

 お袋方のおじいちゃんが逝った。


 たぶん83歳ぐらい。

 親父方のおじいちゃんとは違い、酒を飲んでも暴れないし、孫である僕たちに優しく接してくれた。

 本当にいい人だった。

 妻であるおばあちゃんが、後妻だったため、お袋とは血が繋がってない。

 だからあまりおばあちゃんとは接する機会がなかった。

 その分といってはなんだけど、僕たちに溢れんばかりの愛情を注いでくれた。


 急に倒れて亡くなったから、悲しむ間もなかった。

 お袋は死ぬ前に間に合った。

 その後、遅れて僕と親父がバスで鹿児島に向かう。


 葬式では坊さんが生前のおじいちゃんの話をしてくれた。

「正義感が強く、とても優しい人だった」

「夏の暑い日はアイスクリームをたくさん買って、公園で子供たちに配り、紙芝居を聞かせてくれた」

「また還暦を迎えてからも勉強熱心で、いろんなサークルに入ったり、テニスをはじめたり……」


 それらを聞きながら、僕は少しずつだが、涙を流すことができた。


 ~2週間後~


 僕と親父は先に、地元の福岡に戻っていた。

 娘であるお袋は、兄妹の叔母と叔父、それから妻であるおばあちゃんの4人で、遺品を整理したりしていた。


 おじいちゃんは物持ちが良い人で、家の中にもたくさんの本を所有していた。

 ただ、僕はおじいちゃんが生前の時から、家の壁をみて、不思議に思うところがあった。

 それはポスターだらけなのだ。

 女性芸能人、アイドルばかり。

 それらが壁一面に貼られていた。


 お袋に聞くと、妻であるおばあちゃんが壁紙の色が気に食わないと理由で、隠しているらしい。

 それにしてもアイドルである必要があるか?



 鹿児島からお袋が疲れて帰ってきた。


 お袋が夜、酒を飲みながら話し出した。


 どうやら、倉庫から遺品がたくさん出てきたらしく。

 その中に、おじいちゃんからしたら、「見ちゃイヤン」なものが大量にでてきたらしい。


 お袋と叔父が買い出しに出かけているとき、おばあちゃんと娘の叔母がそれを見つけた。

 一つのアルバム。

 叔母は「ああ、お父さん写真好きだったもんね」と懐かしむ思いで、ページを開いたそうな……。

 だが、そこには叔母が望む写真はなく、見知らぬ女性が映っていた。


 若い女性があられもない姿で、イスに座っている。


 つまり、ヌード写真である。

 これが妻であるおばあちゃんだったら、まだよかっただろうが。


 葬式で坊さんがいったように、僕のおじいちゃんは還暦を迎えてから、色々なことにチャレンジしていた。

 とあるサークルに加入し、みんなでお金を出し合って、ヌードモデルを雇い、撮影会を楽しんだらしい。

 

 それを後にきいた叔父は、妹の叔母にこう言ったらしい。

「ええ!? 親父が?」

「そうなのよ、信じらない」

 叔母は気持ち悪いといった感じで答えた。

 だが、叔父はそんなことは無視し、前のめりでこう言った。

「その写真、どこにあんの!?」

「ないわよ! 気持ち悪いからすぐ捨てた!」

「えぇ~ 見たかったのにぃ~」

 親も親なら子も子である。



 僕はどちらかというと、お袋側の血筋に似ている。

 真面目な方だし、正義感は強いし、曲がったことが大嫌いだ。

 ただ、先ほどの叔父の発言の通りだ。

 基本変態の家系なのだ。

 それもムッツリスケベ。

 僕も叔父の立場だったら、絶対に「見たい!」と言っていただろう。



 この話の教訓として、もし僕がある日死んでしまったら、押し入れになるムフフなグッズはどうすればいいのだろう。

 僕にも娘が二人いる。

 愛すべき娘たちによって、捨てられるのだろうか?

 父の威厳とともに……。

 

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