第4話 ベランダの話
まだ僕が産まれる前の話です。
1970年代、兄が味噌村家に長男として誕生しました。
たぶん新生児ぐらいで、動いたりすることもない寝てばかりの赤ちゃんです。
当時、奈良に住んでいて、あの有名な法隆寺の近くに住んでいたそうです。
畑に囲まれたアパートで、まだ現代のように街灯なども少なかったとききます。
僕のお袋が、夜、ベランダで洗濯物を干していたそうな。
先ほども言った通り、辺りは一面、畑のみです。
とても静かで、車も中々通らず、ひともあまり歩いていません。
そんな中、お袋が服を竿にかけていると、畑の向こう側で二つの光りに気がついたそうです。
目を凝らして、よく見ると、その小さな光は徐々に、こちらへと近づいてきます。
一定の間をおいて、スッ、スッ、スッ、と動きます。
どうしても気になったお袋は、しばらくその光が何か確かめようとしました。
「……ッ!」
やっと『それ』がなにかわかったそうです。
正体は人間でした。
つなぎ服をきた無精ひげの男がじーっと、こちらを見ていたそうです。
目と目が合うと、お袋は怖くなり、すぐにベランダから家の中に逃げ込み、窓の鍵を閉めました。
親父は仕事が忙しく、まだ帰宅していませんでした。
危険を感じたお袋は、自宅のドアの鍵もしめたそうです。
もう一度、窓から外をのぞくと、男の姿がありませんでした。
ホッとしたのも束の間……。
ガタガタガタッ!
何やら玄関が騒がしい。
恐る恐る近づくと、ドアノブが激しく回っていたそうです。
これはもう危ないと感じたお袋は、警察に電話を入れました。
ですが、田舎ですし、当時は携帯電話もなかったので、中々パトカーは着ません。
その間もずっと、ドアノブはガチャガチャいっていたそうです。
男は開かない扉に諦めたのか、静かになりました。
お袋が男が去ったかと玄関に向かおうとした瞬間、ドア下に備え付けられていたポスト口が、バンッ! と開きました。
ドア越しに目があったそうです。
男は笑うわけでも怒るわけでもなく、無表情でお袋を見つめていたそうです。
お袋は怖くて腰を抜かしたそうな。
しばらく家の中を見ていた男でしたが、飽きたようで、黙って去っていきました。
僕はこの話を聞いて思いました。
もし、お袋が窓とドアのカギを閉めなかったら、僕という命は生まれなかったのかもしれない……と。
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