第3話 片っぽな話

 僕は幼いころからアトピーが酷く、特に小学生のころはいつも体中をかきまくっていました。

 別にいやらしい意味ではないのですが、乳首をよくかいてました。

 乾燥しやすかったんだと思います。


 毎日、風呂上りにボリボリかいていると、少し腫れあがってきました。

 小学生ぐらいのときです。


 その姿を見て、中学生の兄がこう言いました。

「お前、そんなに乳首かいていると、とれるぞ」

 僕は笑いました。

「とれるわけないじゃん。お兄ちゃん、なに、バカなこといってんの」

 そう言うと、兄は怒りました。

「冗談じゃないぞ!」

「え?」

「本当にとれるんだからなっ!」


 てっきり年の離れた弟をからかっているんだろうと思いました。

 しかし、兄は真剣な顔でこう言いました。


「お兄ちゃんの友達で乳首とれたやついるぞ!」

「ウソッ!?」

「本当だ」


 兄が所属していた野球部で起きたことらしいです。

 部活を終えて、部室で着替えていた男友達が、毎日のように「あー乳首かいい」と言ってかきむしっていたそうです。

 それを兄は毎日見ていたそうで、部室内でもみんなでいつものことだと笑っていたらしいのです。

 しかし、ある日、その友達が「かいーーー」とかいていると、ボトンと片方の乳首が床に落ちたそうで。


 ビックリしたその人は乳首を持って、病院に向かいました。

 手術で再生させるのだろうと思っていたそうです。

 診察した医師はこう言ったそうです。

「男性ですし、今後、使うことはないでしょう。手術は必要ないですよ。そのままで大丈夫です」

 そう言われて、結局、その人はその日から片方だけ、乳首がなくなってしまったそうです。



 兄は幼い僕に厳しく言いました。

「お前も乳首落としたくなかったら、もうあんまりかくなよ!」

「うん、わかった」

 

 その日以来、僕は兄のいいつけをまもるようになりました。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る