第6話 趣味の話

 高校生の頃、すごく頭の良い友人がいた。

 なんで、こんな優秀な人が同じ高校に? ってぐらい成績良くて、勉強熱心。

 口を開けば、真面目な話ばかり。

 主にテストや教科書のばかりで、僕は正直「この子とは話が合わないなぁ」と思っていた。


 毎日、勉強のことしか、考えてなくて、相手をしていると疲れる。

 別に勉強熱心なのは、すごいことだけど、あまりにもスイッチが入りっぱなしで疲れる。

 僕は友人として、くだらない話がしたかった。

 当時流行っていたゲーム、アイドル、テレビの話。

 だが、彼はそういう流行には疎い人で、浦島太郎と話しているような感覚に陥った。

 仕方ないから、僕は黙って彼の勉強話を聞くことにした。

 噛み合わない話より、聞き役に徹している方が楽だから……。


 だが、ある日。

 急に彼と勉強以外の話で、盛り上がった。


 深夜の芸人ラジオでゲストとして「大人向き映画」のレジェンド男優が出演した回を僕が話したからだ。

 僕は真面目な彼はこんな話は嫌うだろうなぁぐらいで話したのだが、予想と反してかなり興奮していた。


「味噌村も聞いたのか!? あのレジェンドの話! すごいよな!」

 僕はまさかここまで、彼が男優のことを好きとは思わずビックリした。

「そうだ! 今度俺ん家に遊びに来いよ! レジェンドの名作、いっぱいあるからさ!」

「えぇ……」

 それまで、勉強の話しかしなかった彼と急に仲良くなった。

 というか、単に彼が無知な僕に色々教えたかったらしい。


 翌日、彼のマンションに遊びにいった。

 部屋に入ると膨大な数の参考書がギッシリ詰まった大きな本棚が壁を覆っていた。

 だが、そこには参考書だけではなく、難しい文章の隣には、裸体の女性が……。

 パズルのように、参考書、エロビデオ、参考書、エロマンガ、辞書、エロビデオ、エロ……。

 年頃の青年が恥ずかしげもなく、本棚にランダムな並べ方をしていた。


「味噌村! 好きなの持っていけよ!」

「え?」

「おすすめはこれだな!」

 ほぼ、押しつけられるようにビデオを4本も借りてしまった。


 それからしばらくして、彼とよく大人向けの店に遊びにいくようになった。

 彼が入念にリサーチした作品を見に行くのだ。

 パッケージを選ぶ彼は、教科書を読んでいる時よりも真剣な眼差しだ。


「ダメだ……。今日はハズレばかりだよ」


 お目当ての品がなく、肩を落とす。

 この間かかった時間は二時間ほど。

 それぐらい彼の買い物は真剣なのだ。

 曰く「俺は絶対に失敗したくないんだ」という理由で、数時間もかけて作品を選ぶらしい。


 僕はほとんど買わない。

 彼の買い物に付き合うのは、本当に疲れていたので、あきらめてくれたことにほっとしていた。


 店から出ようとしたその時だった。

 彼の足が止まる。

「お、おい! 味噌村! これ見ろよ!」

 そういって一つのパッケージを僕に見せつける。


 その名も「出産」


 僕はそれを見てドン引きした。

 一応、自身の目でも確認したが、内容はただ妊婦が出産するというものだった。


「これ、当たりじゃないか!?」

 偉く嬉しそうに目をキラキラと輝かせていた。

「ねぇ、これをどうすんの?」

 一応聞いてみる。

「いやぁ。俺、興奮してきたわ」

 そういう彼は息が荒い。

 ここまで歪んだ癖を持っていたことに、友人として、僕は驚きを隠せなかった。


「これはやめなよ。ただの出産だよ? 買ってどうすんの?」

「ライトな味噌村にはわかんねぇんだよ。俺までの境地に入ると、これぐらいハードじゃなきゃ、興奮できないのさ」

 どや顔で語る彼。

 このままでは1人の友が帰ってこれなくなると思った僕は必死に彼を説得した。


「やめときなよ。人の趣味にとやかく言うつもりはないけど、これは人としてダメだと思うよ? 赤ちゃんが生まれるていう映像じゃない?」

「……」

 僕が必死に話しかけるが、彼はずっとパッケージを黙って眺めていた。


 結局、買わずに店を出れた。


 だが数日後……。

 一通のメールが携帯電話に届く。

 彼からだ。


「味噌村! この前のビデオ、やっぱ悩んだ末に買ったわ! すっごく良い作品だったから、お前にも今度貸してやるよ!」

 僕はそれだけは嫌だと頑なに断った。


 そんな歪んだ性癖を持つ彼だが、国内でも5本の指に入る難関大学に合格した。

 天才はやはり、違うなと思った。

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