第4話 天職では!?

 採用していただけたので、プレイの流れを聞いていよいよお仕事スタートです。一般的には、女性が一人で待機しているプレイルームに男性が通され、「初めまして」とかなんとか挨拶をして一緒にシャワーを浴びたりします。

 でもそのお店では、まず男性がプレイルームに案内されて一人でシャワーを浴び、終わったらフロントに電話。フロントの男性スタッフは女性が待機している別の部屋に電話して、女性はそれを合図にプレイルームへ向かい、部屋の前でアイマスクをしてドアをノック。部屋に入れてもらってプレイスタートでした(女性もあらかじめ一人でシャワーを終えています)。


 初めての仕事の時は、本当に緊張していました。何をされるかうまく想像できませんでしたし、何か失敗をするのではと不安でした。ここで詳細なプレイを語るようなことはしませんが、初めてのお客様は初老の優しげな男性で、私が横になっている状態で口に突っ込まれて、「これこれ、こんなことがされてみたかった!」と思ったこと(我ながらM気質)、プレイを終えたあとに「あなたはこの仕事に向いてるんじゃないかな」と言われたことなどが印象深く残っています。

 一本お仕事を終える毎に、部屋に付いているシャワールームをタオルで拭き上げたり、ベッドに敷いてあるタオルをすべて取り替えたりするのがわりと大変でした。こういう部屋の片付けは男性スタッフがするものではないんですね。


 そんな感じで何本かお仕事をして思ったことは、「これは接客業だ!」ということです。それまでは漠然と、風俗というのはエロいことをする仕事、女性が体を提供する仕事、と思っていました。でもそんな受け身のスタンスではなく、男性が楽しい時間を過ごせるようにもてなさなくてはいけない。あとで知りましたが、風俗業は「体一つでもてなす究極の接客業」とも言われます。私はこれまで接客業というものをしたことがなかったので、「お客様に喜んでいただけたらうれしいな……。そうかこれがきっと、接客業の醍醐味なんだ!」と思いました。

 なので私は今現在に至るまで、風俗嬢は「接客業として好きだから」という理由で続けています。男の人が好きだし、セックスも好きですが、仕事の時は自分の性欲満たしはあまり考えていません。働いているうち、「この仕事が好き!」というタイプの方に何人かお会いしたことがありますが、そういう方は大抵セックスがお好きですね。接客業として好きという私のスタンスとはまたちょっと違っていて、そんな私のようなタイプの方にはまだお会いしたことないので、きっと自分はレア中のレアなんだろうなぁと思っています。

 ただ、風俗嬢も人なので、やっぱり気持ち良くしてもらえたらうれしいものですし、性的なことって気持ちが大いに関係していて、嫌なお客様に自分本位に攻められてどんどんあそこが乾いていってしまうこともありますし。おそらく風俗で一番楽しい遊び方って、「お互い楽しい」とか「お互い気持ち良い」だと思うんですよね。そういう意味ではお客様にもある程度の楽しいプレイ、お互いの相性が合うこと、優しく接してくださることを期待してしまっていると思います。


 業界に飛び込んでみて、私のこの「お客様に喜んでいただきたい、お互い楽しいプレイにしたい」と思う気持ちは風俗嬢向きではないかと思いましたし、これまで私が悪いことだと思って隠してきた、男の人やセックスが好きな気持ち、性への関心が強いことなどは、強みになる。隠さなきゃいけないどころか、逆に喜ばれる! というのを感じてとてもうれしかったんです。さらに、入店したその月からお店のランキングに入ることができたため、「これは天職では!?」と強く思いました。

 これらは私が根っから真面目な性格をしている故だと思います。きっと、真面目な人間が風俗嬢をするとこうなる、という顕著な例です。

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