第2話 初めての面接
曙町は箱ヘル(店舗型ヘルス)の多い町です。
ざっくりご説明いたしますと、風俗店で一番ハードなのは「ソープランド」で、本番行為があります。日本の法律(売春禁止法)では女性が体を売ってお金を得ることは禁止されていますが、ソープは「公衆浴場での女性の自由恋愛」という建前でその法の目をかいくぐっています。
「ファッションヘルス」はその点、本番行為はご法度です。本番行為以外ならなんでもありですので、男性器を手でしごいたり(手コキ)、口でしごいたり(フェラ)、男性器を女性の太ももの辺りなどにこすりつけたり(素股)することによって男性を射精に導きます。ホテルなどに女性が派遣されるのがデリヘル、女性が待機する店舗に男性が訪れるタイプが箱ヘル(店舗型ヘルス)です。
その他、ソフトサービスと呼ばれる、女性が性的なマッサージをする「風俗エステ」や、女性が手コキをしてくれるのが基本の「オナクラ」など、風俗と一言で言ってもその業態は多岐に渡ります。
基本的にはソフトサービスであるほど採用基準が厳しく、容姿の良さや年齢の低さが求められます。反対に、ヘルスやソープでは面接に来たほぼすべての女性を採用するようなお店もあります。
私の場合彼氏がいて、風俗で働くことを許可してくれたとはいえ本番行為はさすがに抵抗があるようでしたし、私自身も彼氏以外の人とセックスがしたいわけではなかったのでソープは考えておらず、曙町で一番多い箱ヘルの中から働くお店を探すことにしました。
風俗業界の求人情報が載せられた求人サイトがいくつかあってそれらをチェックすることになるわけですが、初めて見たときはどのお店も違いがいまいち分かりませんでした。風俗業界の通例として、そういったサイトに報酬の額が載せられていることはまずありません。求人サイトからではそのお店の特色もよく分からないことが多く、男性客用に作られたホームページを見たほうが、どんなプレイをすることになるのか、何を売りにしたお店なのかが分かります。
初めての時はそんな勝手もよく分からなかったため、とりあえず雰囲気の良さそうに見えた、いわゆる「お姉さん系」のお店のひとつへ面接に行くことにしました。おおよそ20代から30代前半くらいの女性が働いているヘルスです。
お店のLINEアカウントとやり取りをして約束を取り付け、緊張しながらお店へ出向き、スタッフルームのようなごちゃごちゃっとした小部屋に通されて面接スタート。お店のスタッフと思しき面接官の方に志望動機などを訊かれ、興味が募って……というくわしい話をしました。
すると、あなたはご奉仕タイプのMみたいだから、この店よりも向いてる店があるかもしれないという話になり、すぐ近くにあった同じグループの系列店に案内されました。そちらは同じヘルスでも「マットプレイ」のお店。そこの店長さんに面接が引き継がれ、また同じ話を繰り返しました。
私がその時された説明では、マットプレイとは、男性がマットの上に寝転んだ状態になり、女性がローションを使って気持ち良くしてあげるというもの。男性が受け身になるので女性は基本受け身にならない。ローションは滑りやすくて危険だし、技術を習得する必要がある、とのことでした。
確かに私はMで、フェラが好きなご奉仕タイプの自覚はあるけれど、Mだからこそ受け身に回ったほうが活きるのでは? それに初めての風俗のお仕事なのに、馴染みの無いマットの技術を一から学んでから、というのはハードルが高いような……?
その気持ちを正直に伝えたところ、そこからお店側のほうで、なら系列のOL店はどうか? いやあそこは人が足りているから今は募集してない、なら和服を着るお店はどうか? いやあそこは部屋数が足りてない、といった話し合いになり、しばらくして「大変申し訳ないですが、うちのグループではあなたが働けるお店は無いようです」と言われてひどく驚きました。まさか、こんなやる気のある女が不採用になるなんて……! というか、こういうお店では女性は多ければ多いほど歓迎なんだと思ってた!
お店を出て少し離れたところから半泣きで彼氏に電話をかけて愚痴をこぼし、その日はあきらめてしょんぼり帰宅。私のような取り柄の無い普通の女が風俗店で働きたいなど夢を見たのが間違いだったのか、と考え大分落ち込みました。
ただ、私はこのあと自分にぴったりな別のお店と出会うことになるので、風俗業界デビューがこのお店でなくて結果的には正解だったようです。まさに捨てる神あれば拾う神ありでした。
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