第29話 発見

 バリル食堂の裏口で一人のブ男がまだかまだかと誰かの到着を待っていた。


「ザッ!」


「ん?」


 足音を聞いたブ男の目線の先には、ルーカスとエディ、ニケが立っていた。ブ男はニヤリと気味の悪い笑顔を見せてからゆっくりと話し始める。


「お、お前がルーカスか?」


「ああ。」


「つ、付いて来い。」


 ブ男は発言するなりすぐに後方へ振り向き、裏口の扉を開けた。


「ギイイイイイ。」


 ブ男が開けた扉のすぐ先にあったものは、地下深くへと続く階段であった。その階段は深くなるにつれてだんだんと幅が広くなっているようであった。ニケ達はブ男に案内され、奥へ奥へと進んでいく。


「こっこれは……。」


「そうか、ニケは初めてか。テュミニーがここまで発展出来たのは、武器産業だけが理由じゃないんだ。」


「えっ?」


 しばらく歩いたニケ達を待ち受けていたモノは、地下通路入り口の扉の10倍はあろう大きな扉であった。


「ガチャッ!ゴゴゴゴゴゴ!」


「ここテュミニーは、武器産業と肩を並べる程に闇産業も発展しているんだ。」


 開かれようとしている大きな扉の隙間から、小さな光と音が漏れ始めた。


 中に広がる光景を見たニケは、あっけにとられる事しか出来なかった。何故ならそこには地下とは思えない程の広い空間が広がっていたからだ。


「すっ、すごい……。これが地下なの!?」


「ああ。ここは地表にある街が出来てから作られた場所じゃないんだ。この空間があるからこそ地上にも街が作られたんだ。そういう意味では、こちらが本物のテュミニーなのかもしれないな。」


 辺りには酒に溺れる者、賭博をする者、言動がおかしい者等、様々な輩があちらこちらに散らばっていた。


「こんなところにルーファスが……。」


 一言も喋らず進んでいくブ男の先には、周りとは明らかに造りが違う豪華な建物が建っていた。その建物の入り口に着いたブ男は、やっと後ろを振り返りニケ達の人数が減っていないかを確認した。


「は、入れ……。」


「ガチャ。」


 ブ男に案内され建物内をしばらく歩いていたニケは、ある事に気がついた。


――さっきから右、左、左、右って迷路みたいだな……。


 ニケは不審がられないように辺りを見回す。


「こ、ここだ。」


「ガチャ。」


 ブ男が部屋のドアを開けた。部屋の中央にはヒゲ面の男が豪華な椅子に座っており、その両側をケインの命を狙った二人組の暗殺者が固めていた。


「っん!!」


 エディとニケの顔を見た暗殺者の二人組は、一瞬驚いた顔を見せた後エディ達を睨みつけながら平静装っていた。


「エディっ、あれっ……。」


「ああ……。」


 エディとニケも暗殺者達の存在に気付き、改めて警戒感を高めた。


 ピリピリとした雰囲気に気がついたヒゲ面の男が、暗殺者達に向けて質問を投げかける。


「おまえら、奴らを知っているのか?」


「はい、この間我らの任務を邪魔した者達でございます。」


「ほお……。」


 暗殺者の返事を聞いたヒゲ面の男は、ニケ達に向けて見下すような視線を送る。


「フフッ。あいつもそこまで頭がお花畑ではないらしい。なあルーカス?」


「やはりケインの命を狙ったのはお前か!!フランク・エルガー!!」


 ルーカスは大声で椅子に座るヒゲ面の男に向かって話しかけた。


「ん?何の事だい?ルーカス。」


「とぼけるな!!ケインの命を狙うだけでなく、ルーファスを誘拐するとは!!……お前だけは絶対に許さん!!」


 ルーカスは今にも飛びかかりそうな雰囲気を漂わせながら拳を握っていた。怒りで震えているルーカスを見たエルガーは、うっすらと笑みを浮かべ話し始める。


「ルーカスよ。今この世界には大きな変革の波が押し寄せて来ているのだ。私達は大海に放られたイカダ、それならば波に抗う事なく身を任せなければならない。」


「何を言っている!?そんな事よりも!


「無!駄!な争いは避けたいと思うのが普通だろう?エルミナスが落ちた今、ここテュミニーも選択を迫られているのだ。正しい選択は正しい指導者の元でしか成されないのだ。」


「くっ!お前!……やはり、それが目的か!!」


「さあ!誓うのだルーカスよ。我らハキームの陣営に入ると!」


 こちらに気味の悪い笑顔を向けるエルガーは、ルーカスを言葉で責め続けた。


「お前達がテュミニーを支配するようになればここも終わりだ!それが分かっていながらお前らの下につくなんて!それならば死んだ方がマシだ!」


 ルーカスの発言を聞いたエルガーは、面倒だと言いたげな表情をして目を閉じた。


「ふん。まあそういうと思ったがな……。出てこいお前達!」


「あいさー!!」


 エルガーが発言した直後、暗殺者達の後方にある扉から男の声が響いた。


「ガチャッ!」


 開いた扉から現れたのは、目隠しをされた子供を担ぐガルとバルであった。


「なっ!!」


「ザッ!」


 担がれた子供の背格好を見たルーカスとニケは、前のめりになって反応した。二人にはその子供がルーファスである事が一瞬にして分かったからだ。


「ルーファス!!」


 ニケの叫び声が、その子供にニケの存在を気付かせた。


「んー!んんー!」


「ルーファス!すぐに助けるからな!待ってなさい!」


 ルーカスの掛け声に驚いたルーファスは、少し安堵したのか小さな声で返事をした。


「んん。」


「さあ!ルーカスよ、選択の時だ。難しい事ではなかろう。お前は明日の会議で一度手を上げるだけなんだからな。それで元通りの生活が戻ってくるのだ。悪い話ではなかろう?」


「お前という奴は!どこまで…!!」


 怒りに震えるルーカスは、鋭い目つきでエルガーを見つめていた。しかし、ルーカスは己に落ち着くよう言い聞かせながら、話を進める。


「わっ、わかった。で、では一度家に帰らせてくれ。これでもテュミニーにいるすべての鍛冶職人の代表なのだ。私だけで判断できる事ではない。」


「ふぅん。まあたしかにそうだな……。」


「っ!じ、じゃあ!」


 ルーカスが少し安堵したような表情を見せた瞬間、ほんの少し和らいだ空気をエルガーの一言が一変させる。


「ダメだっ!」


「なっ!!」


「今決めるんだ。後々、面倒を起こされてもたまらんからなあ。まあ私達は直ぐに姿を隠せば良いだけの話だが。」


 余裕なエルガーは落胆するルーカスを見ながら笑顔で喋り続ける。


「さあ。返事を聞こうか?テュミニーの未来か!それとも己の子供か!」


 俯くルーカスはゆっくりと顔を上げ、掠れた声でエルガーに懇願する。


「わかった……。たっ頼む……。一度、一度でいいから子供の顔を見せてくれないか……。」


「ふん。ガル。」


 ルーカスの願いに対して呆れたような表情をするエルガーは、大男のガルに子供の顔を覆う布を取るよう命じた。


「へい!」


 目隠しの中から現れたのは、紛れもなくルーファスであった。ルーカスは安堵と怒りが混ざったような表情でルーファスを見つめた。喋る事が出来ない状態にされているルーファスは、ルーカスとニケの存在に気付き安堵していたようであった。


 その時、ルーカスは何かを悟ったのか、穏やかな顔付きで下を向いていた。


――天から授かったこの奇跡。てっきり道具を作るためのモノだと思っていたが、どうやら違ったようだ。


「ふぅ……ふぅ……。」


 辺りにルーファスの呼吸音だけが聞こえている中、ルーカスはゆっくりとエディのいる方向を見た。


「すいません……。」


 ルーカスの発言を聞いたエディとニケが、ほんの少し体をピクッとさせた。


「はい。」


 エディの返事を聞いたエルガーは、痺れを切らしたのかルーカスに答えを出すよう催促する。


「いつまで待たせる気だ!?早く答えろ!」


 ニケは震えている足に力を入れ、踏ん張るようにしてほんの少しだけ腰を落とした。


「わかった。私が選ぶのは……。」


 ルーカスはゆっくりと腕を上げ、ルーファスを指差した。


「はっはっはっ!それで良いのだ!ルーカスよ!」


 エルガーが高笑いしながら発言をした瞬間、それは起きた。


「ファイン・ウェイブス。(細かな振動)」


「ズズズズズズッ!!」


「なっ、なに!?」


 ルーカスが小さな声で呟いたその時、部屋内で小さな地震が起きた。その直後、エディは素早く左手を上げて叫ぶ。


「フラッシュ・ライト(閃光)」


「キイイイン!」


 エディの発言と同時に発生した眩い光が、その場にいる敵の視界を遮った。


「なにっ!!」


「ダンッ!!」


 エルガー達が一瞬怯んだ状況の中、誰かが勢いよく飛び出した。その直後、誰かがエディの名前を叫ぶ。


「エディ!!」


 ニケは縛られたルーファスを脇に抱えて、エルガー達のいる場所よりさらに奥に立っていた。


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読んで頂きありがとうございます。


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