第30話 奪還
ニケがまだルーファスと会っておらず、エディと修行していた時の事。
「俺達が商人を助けた後、アルバートさん達のいる所に帰っていた時の事を覚えてるか?」
「うん。覚えているよ。」
「その時、ニケは俺に向かって何で疲れてないの?って聞いてきたと思うんだけど。」
「あの時は驚いたよ……。実は凄いんだって。」
「ほっ、ほおう。何度か戦いも見せたと思うんだけどな。」
ニケの冗談に対して、エディは苦笑しながら話を続けた。
「あれは雷の魔法だと以前に説明をしたと思うが、そもそも雷や他の属性の魔法だからといって、発動する際に何か違うプロセスを踏まないといけないわけではないんだ。」
「じゃあ、全ての魔法は同じように発動出来るという事?」
「そうだ。ただし!その中でも魔法によっては難易度が大幅に異なるがな。難しい魔法の場合、呪文を唱える事によって発動しやすくする事も可能だ。」
「なるほど。あの時の雷魔法は難しいの?」
「下の上ぐらいだな。」
ニケが不安な思いを抱えている事を見破ったエディは、ニケの頭に手をのせグシャグシャと髪をかいた。
「ぐっ!なっ、何!?」
ニケは、エディに自身の心情を読み取られたことを察し、恥ずかしそうにエディの手を払う。
「まだ魔法を使ったことなんてないんだろ?出来なくて当然だ!バーカっ!」
「なっ!」
ニケは少しムッとした表情になり立ち上がった。
「おっ?出来るのか?ほれほれやってみ!」
まだ何も知らないニケでは出来るはずないと確信しているエディは、ニケを煽った。
――ふっふっふ。この天才でもこの雷魔法を会得するのに三日はかかったんだ。まだ魔法の事を何も知らないようなニケに出来るはずないわ!これが出来るようになるとしたら百年に一人の……
「シュウウウウ!」
エディが目を瞑り考え事をしていると、魔法の発動する音が部屋で鳴り始めた。
「えっ?」
エディが慌ててニケの方を見ると、ニケの光る足が目に入った。
――うっそおおお!!
エディが見たニケの足には、確かに何かしらの魔法が発動していた。
――あっ、ありえない……。こっ、こんなことが……。ニケはもしかしたら……。
「エっ、エディ……。」
「どっ、どうした!?」
ニケの行いに対して驚きを隠せないエディは、慌てて我に帰りニケの呼びかけに反応した。
「こっこれ……。」
ニケは手を震わせながら人差し指を足に向けた。
「これっ、どうやって止めるの?」
ニケの本気の訴えに、二人の時間が止まったようであった。
「あっはっはっ!」
エディはニケの素っ頓狂な質問に対して笑わずにはいられなかった。
「笑い事じゃなあい!!助けてよ!!」
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ルーカスがボソッと呟き地面が揺れ始めた瞬間。ニケの足はエディとの訓練時と同じようにうっすらと光り始めていた。
ニケはエディに言われた言葉を思い出しながら足に集中する。
「いいか?まず魔源を魔力に変えるイメージだ!魔法はイメージする事が一番大事なんだ。覚えとけよ!」
――魔源を魔力に!
「イメージが出来たら魔力を足に集中させるんだ!」
――魔力を足に集中!
「足に魔力を溜めている自分が、雷のように早く移動する姿を想像しろ!」
――雷のように!……早く!!!
ニケはエディが光を創り出したのと同時に、勢いよく地面を蹴った。少し周りを回るような形でガルの近くまで飛び込んだニケは、光を遮るのに必死ななガルの片手からルーファスを引っ張り出し、すぐさまガルの元から離れた。
「なっ!くっ!あああ!」
ガルは異変に気付き状況を確認しようとするが、光のせいで何が起こったのか理解出来ず、立っている事しか出来ないでいた。
「くっ!小癪な!」
エルガーは怒りを露わにしながら叫んだ。光が収まり始めた頃、ニケはすでにルーファスを奪還していた。
「エディ!!」
ニケの声を聞いたエディは、すぐにニケのいる場所を把握し指示を出す。
「行けええ!!」
「ダンッ!」
ニケはルーファスを脇に抱えながら出口へと向かった。それにすぐさま反応したのが、ルーカス、ガル、バルであった。
「くっ!逃すなああ!!」
エルガーの声を聞いたガルとバルが血相を変えて走り出した。ニケが部屋を出たそのすぐ後にルーカス、数秒経ってからガルとバルが続いた。
「シャアアア。」
暗殺者がゆっくりと剣を抜いた。その音を聴いたエディも小さな笑みを浮かべながらランスを構える。
「またあんた達か。」
エディは二人を見て面倒臭いと言いたげに肩を落とした。
「それはこちらのセリフだ。」
暗殺者の二人も剣を構え、少しずつ横にずれていく。気づけば敵の二人がエディを挟むような形となっていた。
「やれっ!」
「はああ!」
「ギャンッ!!キンッ!!」
エルガーの一言で戦闘が始まり、三人の武器は幾度となくぶつかり合った。
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ガルとバルが追いかけて来る中、ニケとルーカスは一生懸命に走った。しかし、迷路のような道のせいで、二人はなかなか出口に近づく事が出来ずにいた。
「待てー!こらー!」
ニケ達は、後ろから追いかけてくるガルとバルの叫び声を聞きながら、この状況をどう切り抜ければよいのかを考えていた。
「はあはあ、はっ!」
ルーカスは走る事により息が上がっていたが、ある事に気付きニケに話しかける。
――こっこの道は……。
「ニッ、ニケ君!もしかすると、この通路であれば出口がわかるかもしれない。」
「ほっ本当ですか!?でしたら先行をお願いします!」
「ああ!」
走り続けたニケ達を迎えたのは、他の部屋よりも少し大きな空間であった。
「はあ、はあ、あの扉の向こうが出口に続く通路だったはずだ!」
ルーカスが指を差す先には、扉が一つポツンと存在していた。
「やばいぜ兄貴っ!!」
「わかってらあ!!」
ガルは腕を突き出し、手の平を扉の方に向け勢いよく叫んだ。
「クローズ!!」
「ガチャンッ!」
音が鳴った直後、ニケ達は扉の前に到着した。ニケは抱えていたルーファスをルーカスに預け、ドアを開けようと試みた。
「ガチャガチャッ!」
「なっ!開かない!?」
ニケが四苦八苦している内に、ガルとバルはものすごい勢いでニケ達との距離を詰めていった。
「ルーカスさん、あっ、開きません……。」
「そっ!そんなバカな!この扉に鍵はついていないはずだ!」
ルーカスはルーファスを壁にもたれさせ、急いでドアを調べ始めた。
「なっ、なんだこれは……。」
ニケが開けようと試みた扉は、開くはずがなかった。なぜなら扉と壁の間は完全にふさがっており、まるで壁に施されたドアの装飾のようになっていたからだ。
「がっはっは!そこはもう開くことはねえ!俺の奇跡、クローズを使ったからな!」
ニケ達が扉の前で足止めをされている間に、ガルとバルはニケ達に追いついていた。
「くっ!」
「シュッ!」
ニケは持っていた剣を抜き、ガルとバルに剣先を向けた。
「おいおい。このガキ、一人で俺達とやる気みたいだぞ。」
「ギャハハハハ!おもしれええ!」
ガルとバルは用意していたアックスを身体の前で持ち、ニケ達との距離を少しずつ縮めていった。
――くっ!やるしかないっ!
ニケは覚悟を決めルーカス達の前に立ちはだかった。ガル達とニケは少しの間、無言で相手の出方を伺う。
「ドオーーンッ!!」
どこからともなく轟音がなり響き建物が揺れた。おそらくエディ達の戦闘音だろう。
「ルーカスさん!ルーファスを連れて離れて下さい!」
ニケは叫びながら勢いよくガルの方へと走って行った。ガルはルーカス達の走る方向を見た後、アックスを持つ手に力を込め、身体を大きく動かしアックスを振り上げた。
「シュルシュルッ!」
自身の口に巻かれている布が徐々にほどけていた事に気付いたルーファスは、力一杯布を振り払って勢いよく叫んだ。
「ニケーー!」
「ブンッ!」
ガルが振り下ろすアックスは、垂直にニケの頭上へと向かっていった。
「死ねえ!」
「ズバーーーン!!」
「んっ!?」
アックスを振り下ろしたガルは、納得がいかない顔で目の前を見ていた。それもそのはずだった。ニケは間一髪の距離でガルの攻撃を回避しており、片手で持っていた剣を両手で握り直していたからだ。
「はああああああ!!」
ニケはここだと言わんばかりに、力一杯剣を振り払った。
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読んで頂きありがとうございます。
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