第11話 綺麗
「…確かに僕は変かもね。普通の人から見たら」
魔女に自ら会いにいく…そんな思考回路に普通の人ならならない。僕には魔女に対する恐怖心がないとも言えるし、ただの馬鹿ともいえる。猪突猛進しかしないただの馬鹿だと。だから魔女本人からしても変だと思うんだろう、僕のことを。
「…おしえて。どうして、わたしにかかわるの。あなた、わたしが…こわくないの?」
彼女が質問攻めしてくる。僕という存在の「せい」なのか「おかげ」なのかまだ分からないけど…彼女の悩みも晴れるかもしれない。だけど僕自身の回答で彼女の悩みが晴れるのかは可能性の話。悪化する可能性だってある。…でも彼女のために…コハクのためになるというのなら話そう。
「一つずつ答えていくね。…僕が君と関わる理由は…君と同じでわからないよ。まだ完璧に分かってなんてない」
関わる理由は最初は好奇心だと思っていた。だけど僕も君と同じで丸一日、底なし沼で悩み続けていたんだ。僕のことを考えていた。…自分のことを一番理解しているのは確かに自分。…だけど自分のことを理解するのが一番難しいかもしれない。難しいから知ろうとする。自分だから知らないといけない。それをいつもしているから自分のことは自分が一番理解しているのかもしれない。
「…でもそうだなぁ…推測するなら…君の事を僕とは関係ないって思わなかったから」
「…どういうこと?わたし、あなたとかんけいない。ち、つながってない」
「そういう意味じゃないよ。…君が僕と重なって見えたから」
魔女の子だからという話ではない。
髪型は一緒でなんだか性格の根本が似ているような気がする。彼女は人間嫌いだけど何もしない性格で…僕はみんなに毛嫌いされても何もしない辺り。…そして境遇の事。彼女は天涯孤独。僕も数年だけだけど誰からも避けられる孤独だった。親しい人も裏切り者だとお互い思うようになったところも。
「…僕となんだか重なって見えたから放っておくことが出来なかった。ただ…それだけの理由かも」
「…へん」
「うん。否定はしないよ。実際に変な人だから」
「…こうてい、するのもへん」
何もかも変だと認識されてしまった。でも実際に合っていそうだから何も否定できない。
「わるぐち…だとにんしきしないの?」
「実際事実だから。何も言えないよ。変な人だから魔女の子って認識されてしまったのかもしれないけど」
性格的な問題だったのかな。僕が魔女の子と呼ばれるようになってしまったのは。…そんな事ないと思うけどね。そんな小さな理由で魔女の子って呼ばれたら少し腹立たしいよ。人間は様々で個別に個性というものがあるから…それが受け入れられないからって魔女の子と蔑まれるのは嫌だ。もっともらしい理由を求めるだろう、僕がそんな状況に陥ったら。
「…へん」
「それ何回も言うね。…それほどまでに僕は変なんだ。否定できないけど」
「…へん。へん。…へん。へんなのに…」
彼女は下にうつむいた。やばい…言ってはいけないことを言ってしまったかな…?もしそうなら…謝らないと…。
「ごめん…言ってはいけないこと…言ってしまったかな…?」
「…ううん…。…へんだけど…。…まじめ。きんべんでたいだ…むじゅんしてる」
さらに訳がわからない人物だと思われてしまった。
「…でも…なんだか…きれい」
「…綺麗?それって…どういうこと?」
綺麗と言っていいほど僕は容姿端麗というわけでもない。服もボロボロだから…。しかも頭脳明晰というわけでもない…それなのになんで綺麗なの?性格面?それって…心が綺麗ってこと?そこまでじゃないと思うんだけど…。
「みえない…けど…あなた…きれー…かも。どういう…いみかはわからない」
…また分からない…か。人生って分からないことだらけだなと僕は思った。むしろ分かることの方が少ないんじゃないかと…。
…そういえば…僕…村の人達に切られてしまったんだっけ。…片目を。このまま戻ってしまったら…また切られてしまうかも…。今度はもう片方の目を…そうされたら僕は底なし沼から…今度こそ抜けなくなる。
「…ねぇ。コハク」
「なに?」
「…この近くに村の人達の気配は…する?」
「しないけど…どうしたの?」
「村に…戻ろうかと思って」
そう言った瞬間、コハクは顔色を変えた。どこか悲しい表情を浮かべていた時とは違って…焦りが見えたような気がする。
「…まって…それだとまた…」
…コハクは僕のことを心配してくれているのかな。また切られると思っているのかな…。…確かにその可能性はあるだろうけど…。
「でも僕は魔女の子じゃないって証明したい。…そして誰かと一緒に遊びたい。だから傷ついても…村の人達を説得するしかないんだ」
…コハクの気持ちを踏みにじるのかもしれない。僕のこの行動は。完全に身勝手で誰かの気持ちを考えてすらもいない最低なやつの思考回路。ただの自分だけしか考えていない思考回路…。ごめんね。
…一つ君に言えるとするなら僕は綺麗じゃない。僕は君が思うほど綺麗じゃないんだ。宝石のように…綺麗じゃない。
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