第12話 あの日の夕日を象徴する魔法

 死ににいくようなものだったのかもしれない。だけど魔女の子じゃないって僕は証明したい…そして魔女の起源のことを知らせてやりたい。彼女が人間嫌いになったのも人類の滅亡を望んでいるのか…その事実の理由を…知らせてやりたい。因果応報だという事実を。だけど…僕は村を滅ぼすつもりはないから。こういう事をしようとしても僕は村を恨んでなんていないんだから。どうしてかは…分からないけど…。

 普通の人ならこんな感情を持っている、抱いている。

 だけど僕には持っていない、抱いていない。

 …僕は…感情が欠けているのかな…そう思い始めてきた。

 

 「…ただいま…」

 久しぶりに小屋に帰ってきたような気がする。…これからどうするべきか…それは僕自身がよく分かっているような気がする。…ずっと底なし沼に入ることになるかもしれない。二度ともう光の元へ登れないのかもしれない。…無駄行為になるかもしれないけどね…死ぬかもしれない…からね。

 全て「知った」のだから。


 「…」

 村の中には誰もいない…そう思っていたけど…どこかに人の気配を感じる。…僕の後ろ辺りに…。…まだ…僕のことを魔女の子だと思われているのかな…警戒されているのか、僕のことを…また…傷つけようともしているのかな。

 「…皆さん…」

 「っ…!」

 僕が人の気配を感じた事に驚いて後ろに隠れていた人たちが出てきた。僕を殺そうとしているのかな…武装とかはしていない。けどこの世界は魔法で何でもできる世界だから…武器生成ぐらいの魔法なら村の人達も扱える。

 「…何をしている?魔女の子…」

 「…話したい事があるんです」

 村の人達は複数人で僕をいつでも取り囲めるように警戒態勢を崩さない。僕は全員を倒せる自信はない。最上級魔法を使えばなんとか出来るけど…殺してしまうかもしれないし、僕は極度の体調不良でぶっ倒れるのは確定している。最上級魔法は神のような魔法で一握りの天才しか覚えることしか出来ない魔法。上級魔法が使えない僕がどうして使えるのか分からないけど…。

 「…僕は魔女の子ではありません」

 「魔女の子の言うことなど信じられると思うか?」

 「そうよ。何を根拠に言っているのかしら?」

 「…それなら偉そうですが…僕に聞かせてください。僕が魔女の子だという根拠をお願いします」

 僕は根拠を理解していない。僕が魔女の子と呼ばれる理由が僕自身…知らない。だから知りたい…せめてそれだけでも。僕は知らないのだから…本人である僕が知らないのだから…。

 「…容姿が似ているだけではない。一つだけだが最上級魔法を使える。天才でもない才能の持ち主がなぜ飛び級出来ているんだ?」

 …最上級魔法が一つだけでも使えるから…?でもこれは…たまたま。僕が最上級魔法を使えるようになったのは僕が魔女の子と呼ばれる前だった。関係しているのかは分からないけど…。


 僕はまた過去を遡る。

 最上級魔法が使える初めての日のことを。

 僕は一人で深い山の中へ遊びに行っていた。

 きれいな花畑を見に行きたいとか言って夕暮れの時に…一人で。

 友達はつかれたからと言って僕は一人で行くしかなかった。

 花畑はとても綺麗で夕日と一緒に見るとそれは幻想的な光景なんだ。

 その時だった…あの人と出会ったのは。

 

 「…あれ?おねーさん?」

 「…あらぁ?誰かしらぁ?」

 美しい女性だった。

 魔力が物凄く高くて僕では歯が立たないぐらいの強さだった

 「ぼく?ぼくは…エレク!」

 「へぇ。それでぇ?ここに何の用なのかしらぁ?夕日を見たいのかしらぁ?」

 なんだか独特な口調の持ち主だった。

 でも美しさでその違和感はかき消されていた。

 「うん。ここ、きれーだよね!」

 「えぇ。同僚の地に訪れてみたのだけどぉ…とても良いところねぇ。交換してくれないかしらぁ。でも人間が少ないわぁ。それだと私の目的が達成出来ないわねぇ」

 とても上品に喋っている。

 物静かで穏やかな女性だった

 「お友だちも一緒に来ればよかったのに…こんなきれーなものが見れるんだから」

 「…友達がいるのねぇ」

 「うん。ぼく、友達と一緒にずっと遊んでいたいんだ!」

 「…そうねぇ。…ふふ」

 「おねーさん。名前は?」

 「名前かしらぁ?…いいわよぉ。会うのは最後になるかもしれないけどねぇ…一応名乗っておくわぁ。私の名は…デジール。デジール・ゼルフィスよぉ」

 「デジールおねーさん!」

 「…次、貴方が私のことを思い出す時はお姉さんといえるか怪しいけどねぇ。それじゃあ、もう私の要件は済んだわぁ。私は戻って、仕事に戻らないとねぇ」

 「じゃあね!」

 女性は「デジール」と名乗り、僕に背を向けて歩いていった。

 そして彼女が戻って僕はある程度の魔法が習得されていることに気づいた。

 中にはあの最上級魔法も…だから…もしかしたら…。

 彼女が…僕に魔法を習得させたというの…?

 彼女は…一体…何者なんだ…?


 「待って…僕はもともと最上級魔法なんて使えなかった!それは分かっているでしょ…!?」

 「成長していくと魔法の才能が開花することはある。お前も結局そうだった。だけど飛び級だというのは?どう説明するつもりだ?」

 「僕は…飛び級なんて出来ない!最上級魔法が使えるようになった日に…僕は…とある女性に出会って…!」

 「その女性が才能を与えたとでも言うつもりかしら?そんな事が出来るなんて…魔女クラスしか出来ないわ!しかもここの魔女は怠惰を司る魔女。そんな芸当出来っこない!出来ると言っても限られているわ!傲慢、憤怒、強欲、色欲の4つぐらいよ!そんな芸当ができるのは!」

 「でも、その女性が魔女だった可能性だってある!」

 ありえないと言われるかもしれないけど…少しぐらいなら可能性はあるはず…!

 「ありえない。魔女は一国に一人いるとされている。移動してくることなんてありえない。そもそも移動してくる理由は何だ」

 「それは…」

 それは…分からない。僕は誰かの心が分かるわけではない。あの女性のことも…分かるわけがない。

 「でも…それでも…!」

 「いい。時間の無駄だ」

 「っ!?」

 魔法を打つ準備をしている。僕を殺すつもりなの?でもそれだと国の風習で…!

 「殺しはしない。だけどしばらくの間再起不能になってもらうがな」

 「再起不能…!」

 殺しはしない…だから風習には…魔女の怒りには触れないと判断したんだ…!

 「それじゃあ」

 どうしよう…こんなにも囲まれていたら…どうすることも…出来るけど…でも使いたくない…使いたくない…!

 |つかって|

 「え…?」

 コハクの声が聞こえた。テレパシーの魔法?…それよりなんで…。

 |ふぉろー…する。だからつかって。そのまほう|

 …信じていいんだよね?

 |うん。しんじて。あとのことは…わたしが、むらにせつめいして…じかくさせるから、あんしんして|

 …分かった。

 僕は覚悟を決めて最上級魔法を使う準備に入った。

 僕は唯一使える最上級魔法…その魔法は…。

 「超光熱の爆発を引き起こし…小さな太陽を作る…魔法…!」

 あの日見た夕日を象徴しているかのような魔法だった。

 ピンポイントでこんな最上級魔法が存在したなんて思いもしなかった。

 僕を象徴しているわけではない、あの夕日を象徴しているんだ。

 …破壊力はとんでもないから…使いたく…ないんだけど…。

 「…あ…れ…?」

 威力が…弱まっている?

 |…わたし、たいだのまじょ。だからいりょくを、よわめた。それくらい、わたしにとっては、かんたんなこと|

 …そっか、君…怠惰の魔女だったんだっけ。…だったら…朝飯前…だよ…ね…。

 石造りの何かに僕は全身を打ったような気がする。

 そしてもう一度…僕は底なし沼に落ちていった。

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