第7話 月光浴
雨はまだ降る。そして雨に打たれたまま僕は図書館まで走った。普通の人なら考えられない行動だろう。だってここは魔法でどうにかなる世界なんだから。テレポート魔法なんて使えばなんとでもなる。雨も傘を持っていなくてもテレポートで一瞬で帰る事ができるし、創作魔法で傘を生成することだってできる。魔法で何でもできる世界だからこのような行動は普通の人から見たら意味不でしかないんだ。
「…またもや不法侵入…」
本当に反省している。けど魔女の秘密を明かすためにはこうでもしないとだめなんだ。本当に…覚悟しているから。終わっても処刑されるかもね。不法侵入で死刑なら罰が重すぎると思っているけど…まぁ、とやかく言っている場合じゃない。
「…魔女のこと…そして村の歴史のこと…」
それらは隣同士の本棚だったから探すのにそんなに苦労しなかった。まぁ、魔法でお望みの本棚の場所が分かるんだけど。…便利だけど…その恩恵を受けられない人にとってはこの図書館は不便なんだろうね。ここはかなり広いからお目当ての本がある本棚を探すだけでも…かなり苦労する。魔法を使用する前提で…いや客が魔法使いである前提で設計されているからだろう。
…図書館の前にはこう書いてあった、矛盾したウリ文句が。「誰でも簡単に使用できる図書館」…そんなわけ…ないね。魔法使えない人にとっては簡単に使用できない、完全に矛盾している。
お目当ての本棚の目の前にたどり着いて僕は本を読み漁ることにした。僕が知りたいと思っている情報を得るためにも。
魔女についての本があって、読もうとした。チャロ…いやコハクは魔女なんだから、出生について分かれば…なんとかできるかもしれないのだから。彼女の人間嫌いのことも…なんとかできる…と思いたい。
魔女について
魔女は太古の昔の人間が何らかの理由で悪魔と契約し、人間の道から外れた存在である。絶対的な人類の敵であり、人類を滅ぼすことを目的としている。
「…ちょっと待って」
これ…おかしくない?
「人類を滅ぼす事を目的としているのなら…それならなんで」
どうしてそのまま人間の虐殺を行わないのだろうか。魔女なら普通にそれぐらい…人間を滅ぼすことぐらい簡単なはずなのに。魔女は不老不死の存在、特攻しても死ぬわけではない。死なないから…今すぐにでも殺し尽くしても問題なく目的は達成される。それなのにそれをしない…つまり…魔女の目的は人間を滅ぼすことではない。
なにか別の目的がある…でも彼女は目的なんてなさそうだった。何もかも面倒だと思っていそうな子だったから目的なんてないと思うんだけど…。ただの偏見とはいえ勝手に決めつけるのは悪いかな…。彼女に何か目的でもあるのかな?
魔女は神と対になる存在である邪悪な種族、悪魔と契約しているため魔力が人間では考えられないほど持っている。そして寿命が無限となり、永久の時を生きている。しかし契約を破棄すれば魔女から人間になれるのではと考えられている。
…これは…今現在考えられている魔女の対処法?
彼女たちが魔女と呼ばれるほど驚異的な存在とされているのは悪魔による契約の恩恵が強く、逆を言えば悪魔と契約を破棄すれば普通の人間に戻る事ができる。そして契約を破棄した瞬間、死ぬと考えられている。なぜかというと魔女と人間の寿命は天と地ほどの差があって、人間の寿命を過ぎた魔女は人間に戻る時、急速に体が動かなくなり、輪廻に還るとされている。つまり消失していき、生まれ変わるとされている。
彼女たちを魔女から人間に戻さなければいけないが彼女たちが魔女から人間に戻ることを同意しなければいけない。わかりやすく言うのなら彼女たちが魔女であることを、悪魔と契約している事実を拒まなければ戻すことは出来ない。未だに成功者がおらず、ほぼ不可能に近い対処法であるため魔女狩りは別の方法を模索している。
…対処法は存在している。けどあまりにも不可能に近い対処法であったがためにみんな他の方法を模索していたんだ。
…魔女狩り。魔女を狩る方法を模索し、それが発見すれば魔女を処刑する組織。…この人達も魔女が元人間であることを知っているのかな。そして…これは僕の…彼女のことを知ったからこういう疑惑が出たんだけど。
「魔女が生まれたのは僕達、人間のせい。人間が身勝手だったから。…それをみんな自覚せずに魔女を殺していくのかな」
魔女が生まれたのは因果応報。魔法を使えない人に対する悪い風習のせいで一人の魔女が生まれた。他の魔女も同じなら全部全部…人の身勝手が生んだ厄災。つまり魔女が人類を滅ぼすことは少しだけ因果応報なのかもしれない。…まぁ、何もしていない人間が殺されるのは因果応報だとは思えないけど。でも自分を否定した人間たちは許せないだろう。…人間嫌いになったのはこういう理由だったのかもね。
また精霊と似たような関係性が噂されている。精霊は魔力の具現化した種族で魔力を司る種族でもある。魔女は精霊を宿した存在ともされている国もあり、神格化されている。どこでも魔女は忌み嫌われているというわけではない。
魔女…か…。どこでも忌み嫌われているというわけではないんだなぁ…。
村について
この村は太古の昔、怠惰の魔女を生み出した地として村の人達は村から出ることを禁じられている。怠惰の魔女は神学に記載されている七つの大罪に基づいた力を持つ魔女の一人で他の魔女とは別格の力を持っている。七つの大罪魔女は別々の国に一体ずついて、ここには怠惰の魔女がいるとされている。現在、対処法が見つかっていない。七つの大罪魔女の危険度をここに記す。
危険度:1〜10
1〜3=あまり人間に興味がない。
4〜7=人類をただの自分の欲望を叶える「モノ」だと思っている。
自分の欲望のためなら人間が死んでもどうでもいい。
8〜10=人類の絶対的敵
傲慢の魔女、危険度=8
嫉妬の魔女、危険度=9
憤怒の魔女、危険度=10
怠惰の魔女、危険度=2
強欲の魔女、危険度=7
暴食の魔女、危険度=3
色欲の魔女、危険度=5
…こんなにもいるんだ…それにこの魔女たちの他にも別の魔女がいるんだね…。…それじゃあ…ここの…あの子は…チャロは…怠惰の魔女なのかな。それならここの村の伝承にも辻褄が合うから…。…あの子、七つの大罪魔女の中でも危険度は低い方だったんだ…。
…村のことも大体知り、僕は遺跡の方へ戻った。いつの間にか雨は止んでいて僕は水溜りを踏み、服を汚した。またもや、訳がわからない行動だった。でも彼女の受けた運命を少しだけ体験してみたいと思った。
遺跡に戻ると彼女はただ座っていた。大岩の上に穴が空いていて月が見える。
…月光浴…というやつだろうか。
「…気持ちいいのかな。月光浴」
「…こうしないとおちつかない」
まだ寝ていなかったみたいだった。というか眠れない体なのかな。…それはそれで苦しいかもしれないけど…時間がまだ長くなると感じて…。
「…つき…みえないけど…いわがあるところに、げっこうがあたる。だから、こうやっていわに、もたれてる」
…気温とかで分かるのだろうか。それとも目が見える時にこの場所を見ていたのだろうか。
月光浴は…彼女にとって気持ちいいんだろう。
自分の気持ちを少しでも浄化できる…そういう作用があるのかもね。
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