第6話 雨の夜に忌み子は歩く

 遺跡から出ると空は暗く、雨が降っていた。そして村も暗かった。どうやら調査している間に…夜になってしまっていたんだ…。でも僕に「おかえり」と言ってくれる人間なんてまだ存在しないから…夜に行動しても…帰ってこなくても誰も心配しないから。だから何も気にせず…僕は僕のために動こう。ただの身勝手だと言われてもその通りだから。…何も言えないなぁ。

 「…どこから調査しようかな。まずは…大昔の村のことを調べればいいかな」

 それなら図書館に行く…でもあそこの本は全て読んでしまったから…大昔の村の資料とか本を持っているのは村長かな。…また不法侵入してしまうのかな。でも僕のためなんだから。僕が…普通に暮らすためなんだから。それか僕の罪を自覚するためでもあるのかもね。真実は…残酷かもしれないし、僕が予測したとおりなのかもしれないのだから。…どっちに転ぶか…分からないから。

 「よっと…」

 テレポート魔法を使用して村長の部屋に入った…というより不法侵入した。本当ごめんなさい…後で謝らないといけない…。

 「大昔の資料…ない。…あ、でも…」

 村長の机の上に…地下室について書かれている資料があった。重要な資料などは地下室に保存されるみたい。…村の重要資料に手を出して申し訳ないけど…やるしかないんだよね。

 図書館で読んだヒーローのお話。ヒーローは覚悟を決めて魔王を退治しようとしているんだ。そして魔王の手下たちを…倒している。オブラートに包まないで言えば殺している。完全に現実世界では犯罪だから。…だからヒーローになるには何かを捨てる覚悟がないといけない。例えば名誉とか、慈悲とかね。僕も何かを捨てるんだろうね。…何なのかはまだわからないけどね。

 「…よし。えっと…大昔のこと…あ、あった」

 大昔の資料を読み漁る。幸い現在は午前1時だからみんな寝ているだろう。

 …監視魔法とかなければいいな。

 とりあえず資料を読んでみる…。

 

 魔法が使えない子供は忌み子として遺跡に閉じ込める。

 水子の状態で遺跡に閉じ込める

 魔法が使えない子供は人間ではない、ただの異物だ。

 だからこそ人間社会と関わることが許されるわけがない。

 異物は異物でただ異物だけの社会に生まれればよかったのだ。

 この社会には適さない。

 忌み子の名前:コハク

 享年10歳

 死因:衰弱死

 追記:死に際、悪魔と契約し魔女となった。現在、処刑方法を考えているが魔女の怒りを買わないためにも村人たちには大人しくするように呼びかける。魔女は不老不死であるために忌み子は生き返ったと推測される。


 「…なにこれ…」

 資料に書かれていた事で魔女が人間嫌いになっていた理由が何となく分かったような気がした。いや、気がするじゃない。もはや確信に近い…。

 この世界は魔法使いが人口の99%を占める。残りの1%は魔法が全く使えない平凡な人物。それらの人達に対する差別は今も問題になっているけど解決しようとしない。…だから今でも魔法を使えない人間の不満はたまり続けるばかりだった。だけど対抗できない、むしろ殺されるのは確定しているから何もせずただ不満が溜まっていくだけ…。…もしかして…あの子は…あの魔女は…。

 …国の悪いところ…それはいつか直される。だけどこの悪いところだけはいつまで経っても直されていない。だから魔法を使えないってだけで命を絶っていく人達が多い。あの魔女も…生前…人間だった頃は…国の悪いところに人生を奪われてしまった子供だったんだ。

 魔法を使えない人間は神に認められなかった異物とされて、世間に馴染むことが許されていない。異物は異物だけで独自の社会を作ればいい。だけど人間社会には首を突っ込まないでほしいとだけ。無理に馴染もうとすると社会を守るために殺されることがある。…理不尽だと思うだろう。理不尽でしかない、魔法が使えないってだけで殺されることは。

 「…コハク…か」

 魔女は自分の名前が嫌いだから名乗らなかった。

 魔女は10歳で人間として死んで、魔女として生まれ変わった。

 魔女は生まれてから閉じ込められたから発音がうまくなかった。

 …やっぱり何かあったんだ…魔女には。

 いや「コハク」には。

 地下室を抜けて僕は図書館へ向かおうとした。もう一度本を読むためにも。もしかしたら何か手がかりがあるかもしれないから。外に出てみるとまだ雨が降っていた。雨がまるでこの地域に停滞しているように降っていた。永久に降り止みそうになくて…そんな感じがする。ただの…妄想だと思うけどね。

 雨の夜、僕はなぜかテレポート魔法を使わずに図書館まで走った。服が濡れて寒く感じた。理由は…もしかしたら少しだけ分かるかもしれない。

 魔女は人間の頃、魔法が使えなかった。その不便さを身に体験してみたいと思ったのだろう。僕は魔法が使えない人間を演じているだけ。本当に魔法が使えないというわけではなかった。その点に関してはまだ僕は神様に見放されていなかったんだろう。だけど神様がいるせいで不平等になっているのなら僕は神様を許せるか分からない。神様がいるせいで不幸になっている人もいれば、幸せになっている人もいる。神様は慈悲深いのか無慈悲なのかよくわからない。…だけどこんな話を本で読んだことがある。神学のお話を。

 和御魂と荒御魂の話。それらは神様の一面を表している。

 和御魂は神様の優しさ…つまり慈悲深い一面。

 荒御魂は神様の荒々しい一面…つまり無慈悲な一面。

 神様も慈悲深いだけではない。神様はただの人間に何かを与えるだけの慈悲深い存在じゃない。神様だって個が存在するのだから時には残酷な面も見せる時がある。だからこそ神様は全員を見守っているわけじゃないんだと思う。

 …僕のこともコハクのことも…神様は見守ってくれているのだろうか。

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