第5話 忌み子の遺跡牢

 魔女がいる遺跡の石碑には忌み子を閉じ込める牢と書かれていた。つまりここは意味子を閉じ込めていた場所だとされている。遺跡っぽいけど用途は牢屋…見た目と用途が合っているかもしれないし、合っていないのかもしれない。…。

 「…ここ、見て回ってもいい?」

 「…べつに、いい」

 魔女本人の許可ももらえたことだから早速ここを見て回ろう。何か分かるかもしれないから。…村の伝承…その裏にある事を知りたい。忌み子…そういう存在がこの村にいたということを。…もしかしたら…いや確信するのはまだ早い。でも可能性は…かなり高いといえる。…だから確信へ変えるために僕は調べ上げないと。

 牢という名の遺跡なのか、遺跡という名の牢なのか分からないけど、そこには最初に読んだ石碑とは違う、石碑が何個かあった。それに石碑以外にも気になる代物があったからそこを徹底的に調べ上げておこう。

 大樹に眠る忌み子、悪魔と契約し魔女となる

 …あれ?これ…この石碑だけさっき読んだ石碑と彫られた時系列が違うのかな。それだと辻褄が合わない…。だってさっきの石碑は忌み子が入っているのだから立ち入ることを禁ずると書いてあった。それなのにこの石碑は忌み子が魔女だと断言している。あの石碑には魔女だと断言されていなかった、まるであの石碑が作られた時はまだ忌み子は魔女になっていない時間だったかのように。

 …というかこれで…分かった。だいぶ予想していたけど…やっぱり予想的中していたんだね。…僕がさっき話していた魔女…チャロはこの遺跡に閉じ込められていた忌み子だった…。…それは…人間嫌いにもなるよね。でも忌み子と扱われた理由がまだ分からない。別の石碑に書かれていないのかな…。

 魔女は孤独を嫌い、そしてトモダチを望む

 トモダチと認定された子、村の忌み子として扱う

 …これって…僕の事?でも魔女は…僕のことを愛していない。つまり…魔女は僕のことをトモダチとしてみていない。それなのに…どうして僕が魔女の子…つまり忌み子として見られているの?

 石碑は読み終わり、遺跡にある他のものを見ることにした。魔女はまだだらけている。探索していいという許可はもらっているから大丈夫…のはず。

 遺跡の中には墓石のような大きな岩に白い花が添えてあった。まるで誰かの死を弔っているように。その大岩の前には何もなかった。ただ花があるだけ。芝がところどころに生えているけど…それ以外に目立ったところはない。…この大岩は何を意味しているんだろう。

 「チャロ」

 「…なに?」

 魔女なら…ここにいるならこの大岩の意味を知っているかも。

 「…この大岩…どういう意味か知ってる?」

 「…うらぎりもののはか」

 裏切り者の墓…ということだろうか。さっきからこの子言葉の発音が幼稚でたまにどういう意味で使っているのか分からなくなる。

 「それって…どういう意味…なのかな」

 「そのまま。わたしを、うらぎった。だから、しんだ」

 殺した…ではなくて?死んだ?それってどういうこと?魔女が…君が殺したというわけではないということ?じゃあ、もし君が殺していなかったら一体誰が殺したの?魔女以外に誰かが裏切り者を…殺した…。

 …ある程度のことは分かった。けど肝心な部分がよく分かっていない。…魔女の正体も人間だった頃は忌み子として扱われていたぐらいしか知らない。本当の名前もどうして忌み子として扱われているのかも。

 「…あ」

 「ん?」

 魔女が急に「あ」と言った。なんだかそういきなり言われると怖い。

 「…あめが…ふってる」

 「え?…あぁ…確かに」

 外で雨が降る音が聞こえる。ざー…ざー…と。聞こえる…。

 「…わたし、おと…すき」

 「おと…音のこと?耳で聞こえる…?」

 雨の音が好きなのだろうか。

 「うん。おとはきれい。だからすき」

 音が…綺麗…自然の音が好きなのかな。

 「そういえば…気になったんだけど…君…もしかして目が見えないの?」

 包帯を巻いている時点から薄々気づいていたんだけど…音が好きと言っているから…耳は動いているというより機能しているけど…目は見えないのかな。

 「…うん。みえない。わたしが、めをつぶした」

 …自分で…目を?自分の目を?それって…とても痛いし…目が見えなくなるかもしれないのに…したってことは…目が見えなくなる事を望んだってこと?どうして目を潰したの?…この子にとって目に見える景色は…嫌いだったのかな。

 「もう、みるひつようない。みたくない。あなたのことも」

 「…そっか」

 人間嫌いな理由は分からない。けど魔女から…悲しさと寂しさ、そして…怒りを感じる。怒りの矛先は僕だけに向けられているものじゃなかった。村…そのものに向けられている気がする。…本で読んだことがある。魔法も何も関係がない…ただの哲学の本だけど…。僕の村の図書館…かなりの規模だから調べるにはもってこいなんだよね。普段は僕を図書館に入らせてくれないから不法侵入だとはいえ…図書館に深夜に入ってすべての本を読むために時間を費やしていたなぁ…。

 哲学の本にはこう書いてあった。

 ー物事のすべて、そして人間性にも必ず理由がある。物事にも理由があり、人間性が変化したり、その人間性になった理由が存在する。ー

 …だからこの子も人間嫌いになったのは理由があるはずだ。…その理由を知るためにはどうやら僕の村を調べないといけないみたい。怒りの矛先は僕を含む村全体…それらを調査することで魔女のことも分かるかもしれない。

 …ただの保険をかけたいってだけかもしれない。魔女を調査する理由なんて。僕が魔女の子じゃないって言っても、それが魔女が否定したと言っても…村の人達は信じてくれるのだろうか…という不安があった。だから魔女の秘密を知れば…魔女であるチャロも救われるし…僕も魔女の子じゃないって証明できるから。…一石二鳥ってやつかな。だから…魔女のためではない…自分のために…僕は魔女の秘密を調査する。

 ただの身勝手だよ。僕の行動理由は。

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