煙弾く傘と三つ生り翡翠

01

──明かりの落とされた薄暗く狭い部屋の中で一人の男が誰かと通話している。


「え?今度の担当ですか?ちょっと待ってくださいねー。」


ポケットから掌ほどの大きさの細長い物体を取り出しそれを握ると音声が鳴った。


『個人コードNC7-33-38 クーバルCoebarケニオスKenios痕跡索トレイサーズ情報合致』


展開されるディスプレイを操作しながら会話を続ける。


「お待たせしましたー。今度のやつは……

お!漸くですよ、この前話してた“一揆当千”!そうです、日本の西端側にある長崎の。えぇ。」


そう言いながら空いた手で机上に置かれた一冊の本をパラパラと捲っていく。表紙には何も文字は書かれていないが、一枚捲ったそこには“けむ弾く傘とつ生り翡翠”とだけ書かれていた。


「しかし驚きましたよ。よくこんな本見つけましたね。あ!もしかしてまた分岐点から持ち出したんじゃないですか?いやいや冗談っスよ。冗談。」


「任せてくださいって!必ず“箱嵜貉”を始末しますから。あいつには俺も何度も邪魔されてますからね。個人的な復讐も兼ねてるってわけですよ!」


「うちから出す壊変者エングレイバー翡之瑞ひのみずヒスイですねー。ほら、あいつもう使いモンになんないでしょ。そんなところに先輩からこの話貰ったんでドンピシャ過ぎてビビりましたよ。」


「一応確認ですけど“あれ”も使っていいんですよね?いや、実戦で使うのは初めてじゃないスか?一応ね?」


スワイプされた画面には〘Yarn ulcer Bug〙、〘User beat mob〙、〘Seek Seed〙の文字と共に虫のような映像が映っている。


「ところでこの最後のページ。反対側が滲んでて読めないですけど何て書いてあったか分かります?いや、こういうの気になっちゃうタイプなんですよ俺。あ。分かんないっすか。了解っス。」


「まぁ任せといてくださいよ千干支ちえとさん。この為に準備してきたんじゃないっすか。それじゃあいつもの場所で。」


男が部屋を後にする。薄暗い部屋を仄かに照らしていた机上のウインドウがぶつりと切れた。





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