04

流々川さんに視線を戻す。


「あー、めんどくせぇな。方向操作系の能力か?」


敵を近付けて一撃を当てては距離を離す。迫る八本の腕の隙間を縫うように躱しながら確実に攻撃を当てていく。拳を当てた部分に赤い丸の印が浮き上がっている。


渾身の一撃に顔を歪ませるバルドゥーヤ。


「そんな成りして腕が二本しか生えてないただの人間相手に一発も拳を入れられない気分はどうだ?」


離される前になんとか一撃を返そうと腕を伸ばすも、流々川さんがそれを待たずに能力を放つ空気を見せる。


──っ!


辺りに轟く轟音。吹き飛ばされていたのは流々川さんの方だった。バルドゥーヤは地に2本の足と2本の触腕をしっかりと付け、残り六本の腕を振り切った姿で止まっていた。


「あぁ気持ちいいぜ。正暦保全者お前らの骨が砕ける振動がこの8本の腕に伝わる感触はよォ。」


倉庫の扉に叩きつけられた流々川さんは地面へと叩きつけられる。大きく窪んだその扉がその衝撃の強さを語る。


「この暗闇で見えなかったろ?俺の腕からは粘着性の高い黒い粘液が出る。俺を引き寄せるたびにお前の周りに撒いたそれを足掛かりにして弱いお前に不釣り合いなその能力を防いだって訳だ。サルドの方も終わりみてぇだな。」


十に増えた影がリリーさんを覆っていた。敵の鉤爪を既のところで躱すが、流れるように繰り出された廻し蹴りによって流々川さんの近くまで弾き飛ばされた。飛ばされる僅かな瞬間を逃すことなく銃弾がその身を貫く。


「一緒にいた後ろにいる男も正暦保全者だな?バルド、こいつらを片付けたら次は奴だ。面倒なのは残らず排除するぞ。」



差し迫る危機。倒れ込む二人は肩で息を吸っている。私が何とかしなければ。倉庫の影から姿を出し震える足を上手に扱い、絞り出した勇気が人の形となって二人の前へと歩いていく。



「ボクシーちゃんに情けないとこ見せちゃったなぁ。……ねぇ、ヒナちゃん。フォークForkドッグDog使ってる?」


『ええ。最初から。』


「そっか…ありがと。……ルル。そろそろこいつら弾こうか。」


「その言葉を死ぬほど待ってたよ。」



私が進むのを阻むように立ち上がる二人。少女の治療により回復したとはいえ、それぞれ右腕と左腕を垂れ下げたその姿は最早立っているのがやっとに見えた。


月明かりがその姿を照らし長い影が倉庫へと伸びる。今にも倒れそうな弱々しいその後ろ姿は何故かいつもよりも大きく逞しく見えた。


「おいおい、サンドバッグは自分の役割をよく分かってんなァ!」


八本の触腕が更に増え、死に淵に咲く命を摘み取ろうとその腕を伸ばす。


それに合わせるように十の影が散りその刃を振りかざした。



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