エピソード名“悪魔の1ダース”
01
目を覚ますと閑静な街にぽつりと立っていた。二人に目を向けると屈伸や腕を伸ばしたりしてストレッチを行いながら何かを待っているように見える。
マンションが疎らに建っているくらいでこれといって目立つ建物もない。看板広告のロシア語だけが此処がロシアだということをはっきりと知らせてくれた。
『通信確認。皆私の声が聞こえるかしら?』
脳内に直接届けられる鷹島屋さんの声。それに向かってそれぞれが答える。
『それでは“エピソード”の簡単な説明だけするわ。そこはロシア西部にあるハンティマンシ自治管区スルグトという街よ。そして今回の舞台は中心から少し外れた“ドロシュニク”という地区にある倉庫の中。座標はトレイス体に記録済み。
そこで今夜23時13分に少女13人が集まって悪魔の召喚儀式を行うことになってる。その記録を護るのが今回の任務よ。分岐点まであと20分ほどあるわ。
それじゃあ向かうか、流々川さんのその声を合図に地面を踏み込む。反発した足は元気よく跳ねて身体を月の浮かぶ空へと押し出す。月の兎と手を合わせられるような感覚さえ浮かぶこれまでに無い体験。走るというよりも跳んでいるという表現がよく似合う。
「それビックリするよねー。トレイス体は身体機能なんかも増大してるからねー。リリーさんクラスになるとこんなことも出来るんだから!」
そう言うリリーさんを見ると、捻りを加えながら無駄に高く跳んでいた。標識にぶつかり地に沈んだリリーさんを流々川さんと一緒に起こして再度駆け出す。
「
流々川さんが珍しく大きく笑い、質問に答える。
「まぁそう思うよな。発想的には壊変者寄りの攻撃的な考えだがその疑問が上がるのは正しいよ。
“壊変者”とは言うものの、奴らもただ闇雲に記録を破壊しているわけじゃない。ある一つの世界軸に向けて過去の記録を壊変しているんだ。だから正暦分岐点のエピソードを跡形もなく吹き飛ばすことが奴らの正解とは限らない。奴らも俺らと同じようにオペレーターと話し合いながら記録を書き換えているんだ。
だけど俺達正暦保全者は元々この世界にいないデータだから俺らがどうなろうと関係ないから見つけ次第襲ってくるって訳。そのままにしておいても奴らにとっては邪魔でしかないし、倒したら倒したで“
「何か後手に回ってるような印象を受けますが、壊変者が記録を壊変する前にリーダーの方達が記録の“保護”とやらを行えばいいのでは無いですか?」
「確かにそれは正解だ。
まぁ、それが出来ればベストなんだろうけど…色々と難しいんだよ。
まず
それに記録の膜には一度破られると少しの間は開きっ放しっていう特性があってな。壊変者が破った裂け目を通れば本来消費するはずだった莫大なトレイスを消費せずに済む。
それが後手に回っている理由だな。」
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