06

『レコードボックス到着』


賑やかな機内にその音が鳴ると扉が開いて二人は出て行く。私もその後を追った。


これは──。


先程見上げていた水槽の中にいた。大きさは3m四方くらいだろうか。全身が濡れている感覚があるのに、肌に触れるとさらりと乾いていることからそれは感覚上のみの事実ということを知る。


その中央には魚が静かに泳いでいた。海の魚というよりも錦鯉のような見た目をしている。真白な身体に浮かぶ色鮮やかな模様。しかし模様と思っていたそれが動き出す。


よく見ると映像が投影されているようだった。数人が集まって何かをしている?動き回る魚のせいでそれをはっきりと捉えることはできない。


「この場所が游咏魚の水槽レコードボックス。そしてこいつが正暦分岐点の記録の器、游咏魚レコードだ。」


「ヒナちゃーーーん!」


私達を横目にリリーさんは下にいる鷹島屋さんへ一所懸命に手を振っていた。下のフロアを見ると彼女はこちらを一瞥して直ぐにデスクへ視線を落とす。


「あれれ?ヒナちゃん私達のこと見えなかったのかな?」


「いや、しっかり見てたな。見てた上で、だな。」



『二人共…いや三人だったわね。正暦分岐点の説明をするわ。今回の壊変者エングレイバーは二人。先日正暦分岐点1297.03.01、エピソード名“桜が咲く頃に”を壊変した要注意人物よ。貴方達なら大丈夫でしょうけど、新人もいることだし油断しないことね。』


どこからか鷹島屋さんの声が響く。それに続くように無機質な音声が流れ始めた。


正暦分岐点ターニング・ポイント2004.12.13。エピソード名“悪魔の1ダース”。

レコードボックス内痕跡索トレイサーズ解析中…。解析完了。

流々川留るるかわとどめリリーReReクラウストCloust箱嵜貉はこざきむじな、コード番号R:6601010、R:6696110、R:8539647を確認。

正暦保全者レコーダー三名転送開始。』


濡れない水が身体の深くへ浸透していくような感覚を抱く。


身体の中が満たされたとき意識はその中へと溶け込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る