03
「
「分かってる。毎日毎日憂の憂鬱に浸かってるせいで息苦しいんだ。たまには憂や会長以外の人間と話させてくれよ。」
注意とも取れるほんの僅かな怒気を孕んだ会長の言葉にそう返す
喜八は私に視線を戻し話し始める。
「その窓は単なる飾りだ。尤も、映ってる映像はこの
それでこの窓のことだけど、正暦保全者が現れる度にこんな狭い空間に会長と憂と3人きりなんて耐えられないからつって俺が付けさせた。
…って、そんなことはどうでも良くてよ。
憂が俺らのバートン・テイルのことをまだ話して無いみたいだから俺が変わりに説明してやるよ。
ここ
街の端から先はお前が流れてきた痕跡索の黒い澱みが延々と続いてる。空もまた同じように何処までも続く黒い空が構えてる。バートンテイルの街は痕跡索の光で照らされてるから明るいけどな。その光を調整して昼夜を演出してるんだ。」
喜八さんの口から語られるバートン・テイルの仕組み。変換されたこの身体のおかげが、乾いた布が水を吸い取るようにその話はすんなりと身体に染みていく。
微かな揺れを感じ窓を見ると景色は消え、画面は黒く変化していた。
「お、話してる間にもう着いたみたいだ。じゃあ俺もここらへんで帰るとするわ。話せて楽しかったぜ貉。」
そう言い残すとその自身に満ちた挑戦的な目は影を抱え、最初に会った蜂浦憂染へと戻っていた。
視線を街へ向ける。周りを取り囲む高いビル群の中。草原に立つ一本の大樹のようにそれは伸びていた。空を突く程に高い建築物。会長が行こうか、と呟くとそれを目指し歩き出す。
白い隊服のような服を纏う人が往来するそこは入口であろうが扉などはなく、薄い膜のようなものがかかっている。二人に続いてそこを抜けると顔に張り付く妙な嫌悪感を抱いたがそれは直ぐに消えた。
その先の大きなフロントを歩いていると後ろから声をかけられる。
「あれー?会長と蜜蜂ちゃんじゃーん!その子新入りですか?」
「リリー。もうすぐ“レコーディング”なんだから目に入った知り合いに無駄に絡むのはやめてくれ…。」
振り向くとどちらも180cm以上はありそうな筋肉質な二人組がこちらに向けて歩みを進めていた。
リリーと呼ばれた女性は、短髪でスモーキーピンクの髪色をした外国人だった。その明るい髪色と性格が瑠璃色の瞳を見ているそれ以上に輝かせる。
隣に立つ男性は更に大きく、190以上あっても不思議ではない。その威圧的な風貌とは異なり、自信なさげでどこか疲労しているようにも見受けられる。
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