24:月虹

 食べ物のにおいだ。僕は上着を取り除き、缶詰を見る。あいた場所に細い枝を突っ込んで中身を引き出す。舐めてみて問題がないと判断すると、そこからは早かった。美味いとか不味いとかじゃない、とにかく腹を満たすことに夢中で、固形物も水分もなくなった途端に現実に引き戻された。


 ――さて、これからどうするか。


 鍵を失ってしまった。ここから瞬時に脱出することは不可能。追ってくる気配はないが、まだ潜んでいる可能性は高い。

 周辺は薄暗かった。空気は夜だが、明るく感じられるのは月が満ちているからだ。ここから見えるまん丸の月に、虹がかかっている。

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