22:泣き笑い

 ――どうして缶詰?


 疑問に思えども、悠長に鍵を探す時間はない。追撃を間一髪でかわし、森を奥へと進む。


 ――缶詰……食えればありがたいが。


 とにかく空腹なので、掴んでしまったそれを手放そうとは思えなかった。

 次の横に薙ぐ一撃を正面に飛び込むようにしてかわすと、僕はそのまま勢いよく崖下に落ちた。


「いてて……」


 頭はぶつけなかったが、背中を強く打っていた。すぐに動けないが、追ってきている気配もない。僕は休むことに決めて、掴んだままの缶詰を観察する。

 プルタブはなく、飲料ではなさそうだ。軽く振ると固形物が入っているような手ごたえがあった。

 表面の塗装ははげているので中身の詳細は不明。食べ物のような感じがあるものの、缶切りは手元にないので開けることはできない。


「……で、どうしろって?」


 疲労もピークだ。苦しまなくて済むなら、もういっそ――

 自分が泣いているんだか笑っているんだか、よくわからなくなっていた。

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