9:神隠し

「――おや、こんな場所に人間とは珍しい」


 不意に声が聞こえて、僕は金木犀から一歩離れた。


「警戒してるね? 概ねここに来るまでに怖い目にでも遭ったってところかな」


 指摘のとおりだったが、僕は返事をせずに黙り込んだ。さっきは声をかけられてうっかり反応してしまったが、自分に対してちょっかいを出す怪異の類には気づいていないふりをするほうがなにかと都合がいいのである。


 ――さて、どうする? 声の主はどこだ?


 動物らしきものは目に入らない。金木犀から声が出ているように思える。


「君は超越者に気に入られてこんな場所に連れてこられたんだよ。神隠しってやつ?」

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