最終話:いつかそれが現実になることを祈って
それから一年間、僕は賢人と一緒に一年間受験勉強を頑張り、見事に彼と共に青商に合格した。
もちろん、小説の執筆もしている。作品は、自分を虐めた奴らがいじめられる世界になることを願って自殺するところまでは完成した。一話は大体千文字程度。長くても一万字に満たないくらい。けれど、三十話もある。僕はその三十話分を序章として一週間に二話ずつサイトに公開することにした。
公開から半年ほどは、ブックマークは増えるものの、賢人以外からのコメントや評価はなかった。けれど、約一年経って序章が完結したところで、初めてコメントを貰った。Lichtさんからだった。
『序章の完結、お疲れ様でした。続き、楽しみにしています。これからも頑張ってください。応援しています』
たったそれだけのコメント。だけど、それから数時間後にレビューが書かれた。書いたのはLichtさん。相当読み込んだのが一目でわかる、とても長いレビューだった。
それが宣伝になったのか、それ以降コメントや評価が少しずつ増えるようになった。
僕は学校に通いながら、少しずつ物語を書き進めた。
いじめられていた主人公は、転生先の世界では自分をいじめたいじめっ子がいじめられて不登校だということを知る。いい気味だと思い、いじめに加担する。だけど、担任の教師に説教されて、自分が元の世界の彼と同じことをしていることを知る。
それから数日後、主人公は自分をいじめていた彼と、転生後の世界の彼と偶然知り合う。
自分をいじめていた彼とは姿形や名前が同じだけの別人だと気づき、自分のしたことの愚かさを知る。
担任のモデルはもちろん、二階堂先生。不登校になったいじめっ子は賢人。二人にはちゃんと許可を取っている。序章を読んだ賢人は『俺めちゃくちゃクズじゃん』と苦笑いしていた。
先生にはあれから会っていないけれど、卒業する時にこっそりと連絡先を教えてくれて、たまに連絡をくれる。僕の作品は読んでくれているらしい。サイトの方でコメントをくれたことはないけれど、通信アプリの方でコメントという名のダメ出しを長文でくれる。
容赦無くダメ出ししてくるが、ダメ出しだけではなく、良かったところはちゃんと褒めてくれる。さすが先生。飴と鞭の使い分けが絶妙に上手い。
いじめられっ子だった主人公と、主人公が元居た世界ではいじめっ子だった彼。
二人の仲は少しずつ深まっていき、主人公の心に、この世界から差別を無くしたいという気持ちが芽生える。マイノリティとマジョリティの両方を経験した主人公は、自分が元居た世界を舞台にした物語を書くことにした。
ここまでが、第一章。この先は僕が経験したことの無い展開になっていく。
この物語の主人公は僕がモデルだ。だけど、僕じゃない。だから例え僕の人生がこの先波乱に満ちていようとも、物語の主人公である彼の人生は必ず幸せに向かう。世界は、誰もが自分らしく生きられる世界に変わっていく。ラストはそうすると、物語を書き始めた時から決めている。
僕の描いた物語が一人でも多くの人の心を救うことを祈って、今日も
因果応報 三郎 @sabu_saburou
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