第10話:小説の内容

 小説を書きたいという夢を賢人にも話した。彼は賛成してくれた。


「俺に出来ることがあったら言って」


「うん。ありがとう」


 両親にも話した。しかし、微妙な顔だ。小説家という仕事で食べていけるか心配しているらしい。先生にそれを相談すると「働きながら書いてる人も世の中には沢山いるよ」と教えてくれた。そういえば、Lichtさんも社会人だとプロフィールに書いていた。確かに、小説家を本業にしなくても、投稿サイトに投稿するのもありかもしれない。無料で読めるため、中学生でも気軽に読めるし、書ける。


「実際にサイトに登録して何か書いてみたら?」


 そう言って先生が勧めてくれたのは、Lichtさんの作品を見つけたあのサイトだった。友達がそこで書いているらしい。ペンネームを聞いてみたが、中学生向けじゃないからちょっと……と濁されてしまった。

 親に許可を得て、サイトに登録してみた。しかし、いきなり書こうと思っても書けない。

 そりゃそうだ。まだキャラクターも出来ていないのだから。

 とりあえず、設定を箇条書きで書き出してみる。舞台は僕の居た世界だ。あの世界とこの世界の違いをノートにまとめていく。

 まずは、異性愛者と同性愛者の立場が逆転していること。それから、自然妊娠が罪にならないこと。親になるための試験が存在しないこと。

 こうしてまとめていると、似ているようで全く別の世界なんだなと改めて実感する。


 さて、その世界を舞台にどんな物語を描こうか。それすら決まっていないのによく書き出そうと思ったなと自分でも苦笑いしてしまう。


「どういう内容が良いかなぁ」


 賢人に相談する。すると「自分をモデルにしてみたら?」と返ってきた。


「なるほど……僕の物語か……」


 それならなんだかかけそうな気がする。さっそく、登録したサイトのマイページに、日記を書くような感覚で書いてみる。筆が進む進む。むしろ止まらない。

 無心で書き続けていると、いじめられていた時の記憶が蘇り、涙が溢れてきた。だけど、スマホのキーボードをタップする手は止まらない。もう二度と、あんな思いしたくない。誰にもあんな思いをしてほしくない。その一心で、キーボードを叩き続けていると、ふと、部屋をノックする音で現実に戻る。時間を見ると、もう夕方の六時だ。帰ってきてすぐに書き始めたから、約三時間ずっと書いていたことになる。

 涙を拭いて、鼻を噛んで、部屋を出る。瞳さんに「鼻声だけど、大丈夫?」と心配されてしまった。「大丈夫」と笑って、怪段を降りる。食事と風呂を済ませて、続きを書こうとすると、賢人からメッセージが届いた。執筆を中断して彼と進路の話をする。彼はもう決まったらしい。『もし行きたいところがないなら同じところを受験しない?』とのこと。受験先は青山商業。選んだ理由は、青商はHBTに配慮して制服をジェンダーレスにしているから。そういえば僕の世界でも青商はそうだった。制服をジェンダーレス化して、男子でもスカートを、女子でもズボンを選ぶことを許可していた。けど、ゲイである別に僕はスカート穿きたいとは思わない。何にもわかってないなとニュースを見て呆れたのを覚えている。そもそも、配慮という言葉が上から目線でムカついた。

 賢人もその言葉選びには引っかかったようだけど、体験入学に行くと割と良い雰囲気だったらしい。そういえば、二階堂先生も経験として普通科以外の学科を受けてみることを勧めていた。調べてみると、青商は進学にも力を入れているらしく、商業高校の中では進学率ナンバーワンらしい。偏差値は僕のレベルからしたらちょっと高めだけれど、これから一年頑張れば受からなくはないと思う。

 両親に相談してみると、二人とも賛成してくれた。先生も良いんじゃないかと言ってくれた。

 仮だけれど、進学先が決まった。問題は偏差値だ。ここから一年、頑張らなければ。

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