第4話:僕をいじめた主犯格
翌日、二階堂先生は朝のHRで僕に語ってくれた話を語った。「朝から重い話すんなよ」と誰かが言った。先生はそれに対して「ごめん。けど、みんなには人殺しになってほしくないから。真面目に聞いてほしい」と、悲痛な表情で続きを語った。先生の話はクラスメイト達に響いたようで、それからヘテロに対する差別発言を教室で聞くことはなくなった。
それから数日後、僕は街でたまたま、柴崎に会った。思わず声をかけてしまったが、不登校の彼は僕のことを知らない。
「あ、えっと……ごめん。僕、最近転校してきた三輪正義。柴崎くんと同じクラスなんだ」
僕が自己紹介をすると、彼は顔色を変えて逃げようとした。咄嗟に腕を掴んで止める。
「待って!」
「離せ! 俺に何の用だよ!」
「君と話がしたいんだ!」
「俺は話すことなんてない!」
「僕も転校する前まではずっと、いじめられてたんだ!」
僕がそう言うと、彼は抵抗をやめて僕の方を向き直した。目が合う。僕をいじめていた彼と同じ顔が怯えている。彼のこんな表情、初めてみた。
「信じてもらえないかもしれないけど、僕は一度死んでるんだ」
「……死んでる? 幽霊ってこと?」
「別の世界で死んで、この世界に転生してきたんだ」
「なにそれ。ラノベの読みすぎだろ」
そう言われると思っていた。信じてもらえないのは分かっていた。僕だって同じ立場なら信じない。だけど、僕が「前の世界では同性愛者と異性愛者の立場は逆だった」というと、彼は興味を示した。
「逆ってどういうこと? 同性愛者が差別されてたってこと?」
「そう。僕はゲイで、それを理由にいじめられていて……耐えられなくて、学校の屋上から飛び降りた。そのとき、流れ星が流れたんだ。僕はその流れ星に願った。『異性愛者と同性愛者の立場が逆転しますように』って」
僕は彼に僕が居た世界の話をした。それから、二階堂先生に説教されて心を改めたことも。元の世界の柴崎が僕のいじめの主犯格だったことは言わなかった。真剣に話を聞いてくれている彼を見たら、言わない方が良い気がしたから。元の世界の彼と、目の前にいる彼を同一人物だと思いたくなかったから。だけど、彼から「お前が居た世界に俺は居た?」と聞かれて、思わず口籠もってしまう。
「なんで……そう思うの?」
「俺の顔知ってたから。向こうでも友達だったのかなって」
「……友達だったよ。小学生まではね」
「……喧嘩したのか?」
「……」
「……言いたくないなら無理に言わなくていい」
「……初恋だった」
「元の世界の俺がか?」
「そう。……君に告白したことが、地獄の始まりだった」
「……そうなんだ」
「……けど、この世界の君には関係ない話だから」
自分に言い聞かせるために呟くと、彼は「優しいんだな」と言った。その優しい声を聞いた瞬間、あぁ、やっぱり彼は僕の知る彼じゃないんだと改めて感じた。僕の知る彼はこんな優しい表情をしないから。こちらの世界の彼が不幸になればいいなんて、僕は酷い願いを星に乗せてしまったなと少しだけ申し訳なくなった。
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