第2話:僕は被害者
僕は両親の意向で、中学を転校することになった。
「
同性愛主義の世界は居心地が良かった。みんながする恋愛話は当たり前のように同性愛の話だ。セクシャルマイノリティという言葉はあるようだが、LGBTはLとGがヘテロセクシャルの頭文字であるHに置き換わり、HBTに変わっていた。
クラスには、不登校の男の子が居た。彼の名前は
「なんでそんなにヘテロを庇うんすか? 先生もヘテロなの?」
クラスメイトの一人が笑いながら言う。彼は違うと否定したが、一呼吸置いてこうつづけた。『俺はバイセクシャルだ』と。教室がざわついたが、彼は堂々としている。何が悪いんだと言わんばかりに。
「異性愛の何が悪い。昔は罪だったが、今は違う。異性婚は出来ないままだけど、罪ではなくなってるし、異性愛者はその辺に普通に居るよ。俺達となんの変わりもない普通の人間だよ。君らだって、柴崎がヘテロだって分かるまでは普通に接してただろ。普通に友達だっただろ。彼が普通の人間だって、本当は分かってるはずだろ」
誰も何も言い返せなくなる。
「……僕、そいつがどんな奴だとか知らないですし」
思わず呟くと、彼は言った。『だったら尚更彼のこと悪く言う権利はないな』と。冷たい視線が突き刺さる。僕をいじめた奴らと同じ視線。怖くなって、息ができなくなる。せっかく差別されない世界にやってきたのに、なんでまた嫌われなきゃいけないんだ。
嫌だ。嫌だ。もういじめられたくない。怖い。怖い。
『気持ち悪い』
『死ねよ』
『消えろ』
僕をいじめた彼らの声が、脳裏に響く。ごめんなさい。ごめんなさい。生きていてごめんなさい。
あぁ神様、なんで僕をあの時あのまま殺してくれなかったの。なんで生かして別の世界に飛ばしたの。なんでまた責められなきゃいけないの。意味がわからない。僕は被害者なのに。悪いのはあいつらなのに。どうして——。
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